選ばれる銀行#1
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新型コロナウイルスの感染拡大を発端とする世界的な経済危機は、地域銀行の真価も問うことになる。打撃を受けた中小企業が今後、苦境に陥るのは間違いない。顧客企業の支持なくして銀行だけが生き残ることはあり得ない。果たして銀行は企業を支え、再び成長軌道に乗せることができるのか。特集『選別される銀行』(全15回)の#1では、地銀の企業に対する支援力と再生力を検証した。(ダイヤモンド編集部副編集長 布施太郎)

100%信用保証の「マルホ」
銀行にとっておいしい商売

 3月4日午前8時10分、東京・青山のきらぼし銀行本店ビル7階の会議室で、週に1度の情報連絡会議が始まった。出席者は取締役、グループ会社の社長、本部の部長ら約60人。営業エリアごとに支店を統括する7人の地域本部長はテレビ電話での参加だ。会議の冒頭、渡辺壽信頭取はある指示を発した。

「通常の営業活動よりもコロナ対策が最優先。取引先企業に対して『プロパー融資』を積極的に活用するように」

 同時に「企業のヒアリングを全業種に広げるように」との方針も伝えた。新型コロナウイルスの感染拡大で、当初は飲食店や百貨店、ホテルなどの観光業に限られるとみていた「副作用」はあらゆる取引先に広がっていた。

 売り上げがほぼストップしてしまった小規模事業者の間では、資金繰り不安が現実のものとなり、多くの中堅・中小企業は、数カ月先を見越しての資金の手当てを急ぎ始めた。そんな取引先企業の窮状が支店から上がってきていた。

 通常、経済危機時には各地の信用保証協会が「セーフティネット貸付」と呼ばれる制度融資を発動する。2008年のリーマンショックを契機とした世界的な金融危機や、11年の東日本大震災の際にも設けられ、今回も政府は緊急対応策として新たなセーフティネット貸付の取り扱いを開始した。

 制度融資は、信用保証協会が銀行融資に100%の保証を付け、貸し倒れた場合には保証協会が代位弁済する。このため、銀行は貸した資金を取りっぱぐれることがない。貸し倒れリスクがゼロのまま銀行は利子だけを受け取れ、融資審査も無条件で通る。

「マルホ付き」と呼ばれ、銀行にとってはおいしい商売で、「リーマン危機の際には、取引先の中小企業を片っ端から回って、『マルホをやりましょう』と口説いた」と大手銀行の中堅行員は語る。

 これに対して、銀行が自らのリスクで貸し出すのがプロパー融資だ。貸し倒れが発生すればもちろん、業況が悪化した場合は必要に応じ、貸倒引当金を損失として計上しなければならない。通常であれば、信用保証協会の保証付き融資で営業活動を仕掛けるのが、常とう手段である。

 ただ、保証協会の審査が通るまでには1カ月以上かかる。渡辺頭取は「一定の与信コストの計上は覚悟の上だ。もはや非常事態。今必要なのはスピードだ」と強調する。多くの中小企業や個人事業主が資金繰りに追われる3月期末に間に合わない事態を想定し、プロパー融資の積極活用を打ち出したわけだ。

 きらぼし銀は18年、東京都民銀行と八千代銀行、新銀行東京の3行が合併して誕生した東京の地域銀行だ。預金量は約4兆5000億円で、全国31位の規模。膨大な数の中小企業を抱える東京という肥沃なマーケットに立地しながらも、中堅・中小企業は大手行、地域の小規模事業者は信用金庫や信用組合と、上下の競争相手から挟撃される「地域での存在感が微妙な地銀」(銀行アナリスト)といわれる。

 もちろん、コロナ対策用のプロパーの特別融資制度を創設したのはきらぼし銀だけではない。大手行をはじめ、全国の地銀や信金も相次いで導入している。いずれも、金利優遇のほか、貸し出し条件を緩和する内容だ。だが、ある大手行幹部は「実際にはポーズにすぎない。コロナの影響がどれだけ深まるか分からない中で、簡単には融資できない」と打ち明ける。「融資を申し込まれてもよっぽど返済が確実でない限り実行はできないだろう」と真情を吐露した。

 超低金利などで経営環境が急激に悪化している銀行業界では、地域の盟主だった地銀が「選別」される時代に突入した。取引先を“出血”覚悟で支えるという渡辺頭取の決断は、地銀の「生き死に」を展望する上でも極めて重要であり、その成否は地銀をふるいに掛ける二つの試金石から見えてくる。