選別される銀行#09
Photo:BlackJack3D/gettyimages

伝統的な預金・貸金ビジネスの未来が描けない中で、地域銀行の新たなビジネスモデルを探す旅が始まっている。取引先企業の販売支援だけでなく、自ら商社を経営したり、ファンドを運営したりなど、ビジネスの領域は多岐にわたっている。「かつては地銀と呼ばれていた」と振り返られるほどの大転換があるかもしれない。特集『選別される銀行』(全15回)の#9では、それらの取り組みをレポートする。(ダイヤモンド編集部 布施太郎、 田上貴大、中村正毅)

問われる地域銀行
としての存在意義

「地方銀行として、地方との関係が希薄になるというのは致命的なことだ」

 今から5年前、山口県に本拠を置く山口フィナンシャルグループ(FG)の東京本部長を務めていた吉村猛社長は、強い危機感を募らせていた。

 政府が「地方創生」を掲げて、全国の自治体に独自の総合戦略を策定させる中で、地元の県や市町村がまとめた戦略文書の中に、「銀行」の2文字が全くなかったからだ。

「われわれが地域から必要とされていない状態になっているのではないか」「地方創生を本気でやらないといけないのではないですか」

 本社の経営陣に吉村氏がそう直言したことを契機に、山口FGはYMFGゾーンプラニングという、地元自治体や中小企業との連携強化に向けた完全子会社を2015年に設立。山口県内の自治体などとグループの銀行との間で、相次いで包括連携協定を結んでいった。

 そうした中で、17年に山口県とタッグを組んで立ち上げた新会社が、地域商社やまぐちだ。

「やまぐち三ツ星セレクション」という独自のブランドを設け、企業と共同開発した日本酒を中心に、地元の特産品を首都圏などで積極的に売り込んでいる。

 現在、60社以上から商品を仕入れており、取り扱っている商品数は330。同社の売上高は年間で1億円を超え、来年には海外輸出の取扱高で同2億円を目指すという。

 今年4月には、山口FGが中心となって農業法人を設立し、銀行員が特産品のワサビの生産にも乗り出す予定だ。

 同じように、農業に一つの活路を見いだしているのが、青森県のみちのく銀行だ。

 IT企業のオプティムと共同出資で19年に地域商社、オプティムアグリ・みちのくを設立し、県内で減農薬のコメの生産・販売を始めた。

 AI(人工知能)とドローンを活用して、農薬の使用を徹底的に抑えて生産したコメを、地域商社が農家から全量買い取って販売する仕組みだ。

残留農薬ゼロをうたっている、地域商社オプティムアグリ・みちのくの「スマート米」
残留農薬ゼロをうたっている、地域商社オプティムアグリ・みちのくの「スマート米」

「スマート米」と名付けた商品は現在、通販サイトのアマゾンなどで販売しており、価格は2㎏で1800円前後。その付加価値の高さから、時期によっては青森県のブランド米「青天の霹靂」の価格を上回ることもあり、販売は好調という。

 農産物にとどまらず、工業製品の生産・販売支援に取り組む地銀も出てきた。

 山形銀行は4月から、政府による銀行の出資規制緩和を受けて、全国で初めて100%出資の地域商社(銀行業高度化等会社)、TRYパートナーズの営業を始める。

 取り扱う商品の主軸になるのは、リチウムイオン電池の部材となるセパレーター。電池の過熱や発火を防ぐ絶縁素材で、電池に欠かせない主要部材だ。

 山形銀などが出資する会社、セパレータデザインの量産工場が来年に稼働する予定で、ここで作られたセパレーターなどの工業製品の販売を中心に、TRYパートナーズは地域商社として24年度に30億円の売り上げを目指す。

 こうした一連の取り組みの底流にあるのは、地域貢献からさらに一歩踏み込んで「地域の発展に銀行として責任を持つ」(長谷川吉茂・山形銀頭取)という意識であり、そうしなければ少子高齢化と地方経済の地盤沈下に引きずられるようにして、地銀がじり貧に陥りかねないという危機感だ。

 地方創生の取り組みは、資金需要の盛り上がりといった効果が出るまでに、どうしても時間がかかる。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大が国内外の経済に暗い影を落とし、地方経済の沈下スピードを速めるような状況の中で、今後地銀に待ち受けているのが、「時間との闘い」だ。