これまで石油を巡って数々の戦争が起き、石油がないために敗北した。だが突然、誰も石油を欲しがらなくなった。世界で最も重要な資源である石油は、使うよりも持ち続けることで価値を生むようになりつつある。通常であれば、エネルギー生産者のバランスシートを傷つけるような価格崩壊によって、消費者は少なくとも「残念賞」にあずかれるのだが、いまは自動車に給油したり、飛行機に乗ろうとしたりする人がほとんどいない。強いて言えば、エネルギー施設を運営する企業の一部がまあまあの利益を出せる程度だ。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)だけでも、原油相場を低迷させるには十分だったろう。だがさらに、これまで協調してきた産油国のロシアとサウジアラビアが増産による市場シェア競争に突入し(折しも米国の産油量は過去最高に達した)、事態を一段と悪化させた。推定で日量2000万バレル(産油量全体の20%程度)の原油が消費されていない。