5Gが新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関連しているという科学的根拠のない噂がSNSで広がった。それだけでなく、放火事件にまで発展し、ネットワークトラフィック増加への対応に追われる通信会社を苦しめている。スマートフォンのサプライチェーンや購買の変化などモバイル業界は新型コロナによるさまざまな影響を受けているが、業界はフェイクニュースを追いやるのに必死だ。

イギリスでは5Gと新型コロナを関連付けるウワサが、設備の放火や作業員への暴力といった事態にまで発展。電気通信を監督する組織でも、それを否定するリリースや動画を配信している

5Gの電波が新型コロナ感染拡大に影響している!?

 「5Gの電波が新型コロナウイルスの原因」「5Gが新型コロナを悪化させている」。本サイトの読者であれば、多くの人が即座に否定するだろう。5Gは新型コロナの前から設計されている技術で、一部の国では新型コロナ拡大の前からサービスは開始されているのだ。

 だが、新型コロナが急速に感染拡大を始めた3月ごろから、欧州を中心にこのような主張が広がり、ニュースでも見かけるようになった。

 その深刻さは、5月11日にEricssonのCEOがオンラインイベントで言及したことからもうかがえる。EricssonのBörje Ekholm氏は、「COVID-19と5Gを関連づける馬鹿げた陰謀説をご存知だろう」と切り出し、「現場で作業している我々の勇敢なエンジニアが脅かされている。一部の国では基地局や電波塔が焼かれている」と訴えた。

 イギリスの通信規制当局のOfcomによると、同国では2人に1人が、5Gとコロナが関連しているという説をSNSで目にしたと回答しているとか。一体どうしてこんなことになったのか?

SNSで拡散、著名俳優やボクサーなども紹介

 発端を辿るのは難しいが、1月22日付けのベルギーのオランダ語の新聞であるHet Laatste Nieuwsで、ある医師が「5Gは人命を脅かすものだが、誰もそれを理解していない」などとコメントしたことが関係していると、Wiredは探っている。当時の新型コロナの感染は中国・武漢が中心だった。Het Laatste Nieuwsのこの記事は、武漢で5G基地局が建築中であり、この2つは関連しているのでは? と疑問を投げかけていたという。

 Het Laatste Nieuwsはすぐに記事の内容を修正をした。現在、この記事はすでに削除されており、現在オンライン版では、ベルギーのアントワープなどの港湾部で産業用の5Gネットワークのテストが始まったことを受け、この医師が5Gのリスクを警告するという内容になっている。

 しかし、その後欧州の人々の生活圏で新型コロナが拡大を始めたことにより、まずはオランダ語圏で、次に英語圏で憶測が広がった。

 敏感なトピックだったことに加えて、外出禁止によるストレスもあったのか、SNSで次々と拡散した。さらには、俳優のウディ・ハレルソン氏やジョン・キューザック氏、ボクシングの元世界王者のアミール・カーン氏といったセレブがツイートやInstagramなどで紹介した(多くはすでに削除している)。こうやって、まことしやかに5Gがコロナを感染させているという情報がインターネット上で広がった。なお、イギリスでは昨年すでに5Gサービスが開始している。

ついには基地局への放火や作業員への暴力も

 情報の真偽を確かめることなく、一部の人々は怒りを爆発させてしまったようだ。4月始めには、イギリスのバーミンガム、リバプールなどで基地局に火がつけられたり、作業員が襲われたことが報じられた。隣のアイルランド、それにオランダ、ベルギーなどでも事件があったようだ。

 イギリスでは放火件数は50以上とも言われている。事態を重く見たOfcomは、「携帯電話の電波が人体に安全なレベルであることを確認している」とし、5Gについても基地局が発する電磁波などを定期的に観測していると語った。内閣府担当大臣のMichael Gove氏、デジタル・文化・メディア・スポーツ省なども明確な証拠はないと説得を試みるものの、騒ぎはすぐには収まらなかった。

 世界保健機関(WHO)も、「ウイルスが電波やモバイルネットワークを使って広がることはない」と発表した。

 新型コロナは、固定と無線の両方のネットワークの重要性を再確認させた。オペレーターは増加するトラフィックへの対応を続けているが、5Gと新型コロナが関係しているという説が5Gロールアウトに悪影響を及ぼすと感じているようだ。Swisscomのネットワーク部門総責任者のDaniel Staub氏はEricssonのイベントにて、「(5Gが)健康と関係しているという強い意見に直面している。ネットワークの密度を強めなければならないときに、これは深刻な課題になっている」と語っている。

 Ericssonの話に戻ると、5Gのコンシューマーへの関心は高いとの調査を発表しており、加入者数予測を上方修正した。同社CEOも2020年末から動きが加速すると予想を出している。

 

筆者紹介──末岡洋子

フリーランスライター。アットマーク・アイティの記者を経てフリーに。欧州のICT事情に明るく、モバイルのほかオープンソースやデジタル規制動向などもウォッチしている