ベンチャーキャピタル 激変する新産業の黒子たち

岸田政権から高市政権へと受け継がれたスタートアップ支援策。しかし現場では、目標額に遠く及ばない投資の冷え込みや、東京証券取引所の基準厳格化による「IPO難」が直撃し、これまでの勝ち筋が通用しない事態に陥っている。激変する環境下で、ベンチャーキャピタル(VC)の投資マネーは次なる生き残りを懸けてどこへ向かうのか。長期連載『スタートアップ最前線』内の特集『ベンチャーキャピタル 激変する新産業の黒子たち』の#1では、「ユニコーン幻想」が崩壊したエコシステムの厳しい現実を浮き彫りにするとともに、新たな巨大な金脈としてVCが熱視線を送る「戦略17分野」と地政学リスクの深い結び付きを解き明かす。(ダイヤモンド・オンライン編集委員 岩本有平)

高市首相「先端技術を社会実装」
成長戦略の中核を担うスタートアップ

「私が総理就任後に新たに創設した日本成長戦略会議においても、新技術立国やスタートアップを主要な分野横断的課題の一つに位置付けております。とりわけ『スタートアップ育成5か年計画』をさらに強化する。先端技術の社会実装を加速させてまいります」

 東京ビッグサイトで開催された東京都主催のスタートアップイベント「SusHi Tech Tokyo 2026」。初日の4月27日午後のメインステージには小池百合子・東京都知事と共に、高市早苗首相が登壇し、来場者に向けてこんなメッセージを送った。

 スタートアップ育成5か年計画は、岸田政権下の2022年に発表された、政府のスタートアップ支援施策を体系立てたものだ。これを実現するべく、政府系ファンドである産業革新投資機構(JIC)を通じた投資や大学発スタートアップの創業支援、エンジェル税制の拡大などの施策が進められてきた。

 高市首相はその施策を踏襲した上で、以下の3点を進めると宣言した。

(1)成長加速のファイナンスの強化、資金や人材が循環するエコシステムの構築、海外からの投資や人材誘致を通じた「スタートアップのスケールアップ」

(2)AI、半導体などをはじめとする17の戦略分野の策定や日本版SBIR(中小企業・スタートアップに対する補助や委託などを通じた支援制度)などによる「ディープテック・スタートアップの支援」

(3)起業家教育の充実や地域の大学・高等専門学校発の技術を活用した起業家育成による「地域のスタートアップの創出・育成」

 スタートアップが創出するGDPは、今や日本の名目GDPの4%を占める。これは直近2年間で30%以上の増加であると高市首相は主張し、「(スタートアップは)経済成長への大きなインパクトがある」とも語った。

 SusHi Tech Tokyo 2026には国内のスタートアップやベンチャーキャピタル(VC)のほか、海外の著名投資家なども参加。運営発表によると参加者は6万人に上った。小池・高市両氏が登壇したステージは満席で、後方の通路も多くの立ち見客で埋め尽くされていた。

 なぜこれほどの熱気に包まれるのか。こと岸田政権以降、「スタートアップ」が政治や経済の文脈で語られるようになり、関係者の間で政府や政策への期待が高まっているためだ。

 ただ、高市首相のメッセージには業界にとっては耳当たりのいい言葉が並ぶが、計画の中核となる目標は、折り返しの時期を過ぎてなお1割も埋まっていないのが実情だ。それどころか、成功の象徴であるはずの「ユニコーン」という指標そのものが、足元で揺らいでいる。

 熱気に包まれるイベント会場の一方で、エコシステムの現状は決して順風満帆ではない。華やかなスローガンの裏側では、資金調達環境の冷え込みや新規上場(IPO)ハードルの上昇といった逆風が吹き荒れているのだ。

 次ページでは、折り返し地点を過ぎた5か年計画の達成度を独自検証し、知られざるスタートアップ支援の厳しい実態に迫る。同時に生き残りを懸けたVCマネーが次に向かう“巨大な金脈”の正体を明らかにする。