規律の導入は進んでいるが
いかに「稼ぐ力」に結び付けるか

 2015年6月にコーポレートガバナンス・コードの適用が始まって1年半が経過しました。日本企業にどのような変化が起きているのでしょうか。

大西 3月期決算の会社はコーポレートガバナンス・コードへの対応状況をコーポレートガバナンス報告書で開示し、すでに2回目を迎えていますが、これらの開示を見る限りかなり改革が進んできています。コーポレートガバナンス・コードの運用ルールはコンプライ・オア・エクスプレイン(遵守せよ、さもなければ説明せよ)が基本です。73項目あるコードで遵守していないものは、その理由を説明することが求められます。

 社外取締役の重要性が認識され、2016年には東証一部上場企業のうち社外取締役を選任する企業は98.8%になり、社外取締役の人数は2010年の3倍に増え、全取締役の約4分の1を占めています。「独立社外取締役の少なくとも2名以上の選任」も、すでに約8割の東証一部上場企業が実施しています(図表)。

*東証一部上場企業の社外取締役の選任比率の推移。 出所:東京証券取引所の『東証上場会社における独立社外取締役の選任状況〈確報〉』(2016年7月27日)に基づきKPMGが作成

 改革は急ピッチで進んでいるように見えますが、実際に企業が「稼ぐ力」を回復するための取締役会のあり方、社外取締役に必要な資質は何でしょうか。

大西 その答えはさまざまです。取締役会の中で、社外取締役にいかなる役割を求めていくのか、企業ごとにニーズが異なるからです。現在は、企業経営者、弁護士、公認会計士、大学教授など、さまざまなバックグラウンドを持つ方が社外取締役に就いています。

 業種、業界のことをよく知っている方を求める場合もあれば、ステークホルダーの代表として意見を期待している場合、専門領域での知見を求めたい場合など、社外取締役に対するニーズは企業により違っています。どのような方を選任するかは大変重要であり、企業自身がその方針を明確にすべきです。

 自社の長期的な経営戦略を鑑みた時、「取締役会はどうあるべきか」という観点から評価する必要があります。現在の取締役会のどこに課題があるのかをよく分析し、その課題をクリアするのに必要な役割を社外取締役に求めるのがよいでしょう。

 企業価値向上のために、どのような取り組みをすればいいのでしょうか。

大西 企業と投資家との対話で話題になるのが、不採算事業の撤退に関わる議論です。日本企業は不採算の事業からなかなか撤退できないと、長期投資家からよく指摘されます。しかも、それをガバナンスの問題ととらえているケースが多いのが実情です。

森  企業が変革しようとする時、自社の過去や、社内の誰かを否定しなければならないケースが出てきます。それを社内の力で断行しづらい時に、社外取締役を交えて議論することで活路を見出せます。海外ではディベートが当たり前ですが、日本社会では議論を避ける傾向があります。日本企業はもっと健全で、建設的な議論を丁々発止とすべきです。

 「稼ぐ力」を考える時に留意しなくてはならないのは、経営資源は有限だということ。経営者は限られたリソースを活用してグローバル競争に勝たなくてはなりません。

  長期戦略を鑑み不採算であると考えられる事業から撤退し、成長やイノベーション創出のためにリソースを配分する大胆な判断が必要になってきます。社外取締役の増員や取締役会改革は、この取り組みを後押しするために実施する面があると考えられます。