世界中を巻き込む不正会計、不祥事を起こす企業が続出し、企業や経営者への不信が高まり、コーポレートガバナンス(企業統治)、コンプライアンス(法令遵守)が注目されるようになった。一方、日本経済は「失われた20年」といわれる苦境に陥り、政府も成長戦略を日本再生の柱に据え、ガバナンス改革に強い関心を寄せている。昨今、関心を集めているのが、企業価値の向上、収益力アップにつながる「攻めのガバナンス」である。
「守り」から「攻め」に
ガバナンスが変わる
編集部(以下青文字):企業のガバナンス力を高めることが日本経済の再生に寄与し、また、企業自身にとっても重要であるという認識が広まっています。政府も後押しするコーポレートガバナンス改革の意義、本質とは何でしょうか。
大西 日本経済が「失われた20年」の悪循環から抜け出すためには、それぞれの企業が中長期的に生産性と収益性を高め、グローバル競争を勝ち抜くことが求められます。そのために必要な施策の一つが「ガバナンス改革」です。これまで日本で議論されてきたガバナンスは、コンプライアンスを徹底し、経営者の独断的な行動を監視することや、不正行為や情報漏洩などを起こさないようにして、企業を守る目的で実行されてきました。
しかしいま、日本企業はそうした「守りのガバナンス」から「攻めのガバナンス」に変革しようとしています。
森 「攻めのガバナンス」という考え方の基本は、企業経営に適切な規律を導入し、経営者による積極的なリスクテイクを促進して、新規投資、経営施策を推進することで、持続的成長と中長期的な企業価値の向上を目指すものです。2015年6月に始まったコーポレートガバナンス・コードの適用はまさにそれを後押しするものです。
コーポレートガバナンス・コードの中で、経営に特に大きな変化をもたらすものは何でしょうか。
大西 取締役会の構成メンバーの多様性(ダイバーシティ)が進むことだと思います。かつて日本企業の取締役会の多くは、長年同じ企業で勤め上げてきた「同質性」の高いメンバーで構成されていました。業界事情もよく知る内輪で意思決定するので、異論が出ることは少なく、意思決定が円滑に進む利点があります。軌道に乗っている時はよいのですが、経営が行き詰まった時、問題に直面した時など、状況を打開する新たなアイデアや施策が出てきにくく、同質性が高い組織ゆえの「脆弱性」があると指摘されてきました。
新しいアイデアは知と知の新たな組み合わせによって起こりますので、さまざまなバックグラウンド、知識・経験、専門性を持つ多様なメンバーで取締役会を構成すること、そして社内関係者と利害関係のない「社外取締役の存在」が重要となります。
森 従来、日本の典型的な取締役会では、ある事業部門の執行責任者が「こういう投資がしたい」「こういう事業の進め方をしたい」と説明したら、他部門の執行責任者はあまり口を挟みませんでした。他部門の事業にそこまで詳しくないし、逆の立場になった時、とやかく口を挟まれたくないからです。
そのような場合、取締役会は内輪の論理で進められ、単なる承認の場となり、事業のリスクが精査されたり、ブラッシュアップされたりすることが少ない。取締役会が機能不全を起こしている会社もあると思います。
社外取締役に期待される役割の一つは取締役会の機能回復です。社外取締役は社内の論理ではなく、さまざまなステークホルダーの立場に配慮しながら、企業経営を考えることが求められます。
たとえば、顧客や投資家の視点で素朴な疑問をぶつけることによって、社内の誰も指摘しないリスクや、ビジネスの成功に向けた新たな観点を提示できることも期待されます。取締役会の議論が活発化し、課題が明確になる、それこそが持続的成長と企業価値向上のカギといえます。