ガバナンス改革が高める
投資家との対話レベル

 コーポレートガバナンス・コードの中でも取締役会の実効性評価は、これまで日本で行われていなかったため、非常に難しいようです。取締役会のパフォーマンスをどう評価したらいいのでしょうか。

大西 取締役会の実効性は、他社をベンチマークして測れるものではありません。取締役会に求められる役割や目指す姿は、各企業の事業環境、戦略、ステークホルダーの期待などによって異なるはずです。それを評価するのに、「客観的な基準」を一律に設定することに意味はありません。取締役会評価は、「自社の取締役会の目指す姿が実現できているか否か」が評価基準となります。

  具体的には、KPMGでは、「取締役(会)の役割・責務」「取締役会と経営者との関係」「取締役(会)の資質と知見」「株主との関係・対話」「株主以外のステークホルダーへの対応」など、7つの評価の観点・項目に整理しています。これらを活用し、企業の置かれている環境や生み出すべき企業価値と照らし合わせながら、自社の目指す姿を定義し、現時点の達成度合いを評価します。

 コード適用初年度は、外形的な評価を行っただけで実効性ありとしている企業も散見されましたが、今後は、取締役会がどのような機能を発揮し「稼ぐ力」につなげる活動をすべきなのかを明確にすること、すなわち、企業価値向上と取締役会の実効性との整合性を意識した評価が課題になると思います。

 ガバナンス改革では投資家との対話も重要視していますが、取締役会の実効性評価は投資家にどう映るのでしょうか。

大西 取締役会の実効性を高めることは、取締役会が自社の長期戦略に沿ったリスク、リターンについて適切に把握し、意思決定の妥当性、その必要な監督を行うことにほかなりません。取締役会の実効性の向上と合わせて投資家との対話が進展すれば、マーケットにおいても企業価値が適切に評価される可能性が高くなります。

 勘違いしてはいけないことは、社外取締役の機能は万能ではないということです。執行責任者としての経営者が、何を軸に経営していくのかを明確にし、覚悟を持って業務執行し、情報も積極的に開示する。何よりも経営者が主体性を持って議論を積み重ね、意思決定をすることが重要になってきます。経営者のその主体的行動があるからこそ、取締役会が適切に機能し、「稼ぐ力」につながっていくのです。

 イノベーションを実現し、強靱な企業にするため、各企業がそれぞれのガバナンス改革を推し進めることを期待しています。


●企画・制作|ダイヤモンド クォータリー編集部