M&A仲介 ダークサイド#12Photo by Yasuo katatae

約2年間で少なくとも19社の中小企業を買収した“ストロングバイヤー”、マイスホールディングスに対して、元子会社のトミス建設が起こした訴訟に、M&A仲介業界が注目している。マイス社のM&Aに大手M&A仲介会社のM&A総合研究所が深く関与していたからだ。ところがマイス社とトミス建設のトラブルに関して、M&A総合研究所は責任がないというスタンスを貫く。果たしてそう言い切れるのだろうか。特集『M&A仲介 ダークサイド』の#12では、M&A総合研究所がどのように2社のM&Aに関与していたかを詳報する。(ダイヤモンド編集部副編集長 片田江康男)

訴訟に発展したトラブル案件に
深く関与したM&A総合研究所

 本特集#10『M&A仲介業界が再び戦慄!中小企業を少なくとも19社買収したマイスホールディングスを元子会社が提訴、2社を引き合わせた大手M&A仲介会社とは?』 で詳報したように、建築工事業を営むトミス建設(本社:神奈川県川崎市)とその子会社の高橋工務店が、元親会社のマイスホールディングス(本社:大阪府大阪市)を相手に起こした訴訟に、M&A仲介業界は高い関心を示している。

 訴状によるとトミス建設と高橋工務店は、マイス社に2024年8月に買収された直後から、断続的に会社資金をマイス社や同社の関係先とみられる企業など5者に、正式な手続きがなされないまま送金されたとして、損害賠償を請求。金額は合計1億1989万円に上り、それによってトミス建設は24年12月に資金ショートを起こして、倒産寸前まで追い込まれた。

 一方でマイス社は、トミス建設の主張を「事実無根」と否定。送金は契約に基くたものだとしており、両者の主張は真っ向からぶつかっている。

 マイス社が、買収した子会社の資金を親会社である自社へ送金させていたことは、M&A仲介業界内では広く知られていた。またトミス建設とマイス社のM&Aに、M&A総合研究所が深く関与していたことが判明している。

 業界団体のM&A支援機関協会は、「M&A後に譲り渡し側から資金を抜き取る一方で必要な運転資金を入金しない」企業を、不適切な譲り受け企業(買い手企業)としている。送金の是非を裁判所がどう判断するかは分からないが、結果次第では関与したM&A総合研究所に対して、行政や世間から責任を問う声が高まることも考えられる。故にM&A仲介業界は、訴訟の行方に並々ならぬ関心を示しているのだ。

 ところがM&A総合研究所は、トミス建設とマイス社のトラブルに対して責任がないというスタンスだ。M&A成立の直前に、M&A総合研究所はトミス建設とマイス社の双方と合意の上でアドバイザリー業務契約を解除しており、仲介業務を提供しなかったことが主張の根拠だ。

 しかし経緯を振り返ると、M&A総合研究所は実質的に仲介業務を提供していたといえるほど、両者のM&Aに深く関与していた。果たして責任がないと言い切れるのか。次ページで内幕をレポートする。