日系ものづくり企業の
北米圏のSCM改革

 日本企業のDXはスピードが遅く、スケールが小さいと指摘されます。

 まだ第1層に留まっているせいではないでしょうか。我々がお手伝いした日系ハイテク製造業──ここではA社とします──の事例は、北米圏におけるSCM改革というビッグプロジェクトで、第2層の変革でした。

 A社では、需給の予測、生産や在庫の調整に当たり、これまではサプライチェーンを構成する各社・各部門からデータを寄せ集め、月1回程度の見直しを行っていました。ところが、この作業に、長い時では3カ月もかかっていました。その理由は、ご多分に漏れず、サプライヤー側のデータや小売り側のデータの書式や形式がバラバラで、その統合に苦慮していたからです。しかも北米圏は広大です。その面積は日本の65倍以上もあります。

 データのフォーマットが不統一という問題もさることながら、A社のSCMは、データを収集・統合・分析し、それを需給予測や生産や在庫の調整に反映させながら、コスト削減や予測精度の向上につなげていく、という好循環システムには至っていなかった。

 A社と我々はSCMの最適化に向けて、エンド・トゥ・エンドでのデータ収集システム、機械学習を用いたデータクレンジングやデータ統合、サプライヤーや小売りなどの外部を含めたサプライチェーンを構成するプレーヤー全員を連携させるシステムなどを展開していきました。その結果、需給予測の精度が20%向上し、そのおかげで在庫が半減して、トータルで2億ドル(約220億円)のコスト削減に成功しました。やはり変革に取り組む以上、こうした持続的な好循環システムを実現させなければなりません。

「フォーミュラE」の
データドリブン・アプローチ

 かつては“Data is a new oil”、最近では“Data fuels AI” といわれています。データドリブン経営についてはいかがでしょう。

 我々の強みは、ビジネスプロセスの最適化やその延長としてのDXなどのプロジェクトを通じて蓄積してきた有形無形の知識であり、またその過程で組織的に習得してきたデジタル技術のノウハウやドゥハウです。言い換えれば、ジェンパクトはナレッジドリブンであり、またデータドリブンの組織なのです。

 今シーズンからですが、電気自動車のF1レース「フォーミュラE」のエンビジョン・ヴァージン・レーシングチームと提携しました。チームの期待に応えるため全力を尽くしますが、我々の能力の幅を広げ、深さを増すための学習機会でもあります。

 レーシングカーには250個以上のセンサーがつけられており、エンジンやブレーキの状況、タイヤの温度や摩耗など、車の隅々まで常時監視したり、またライバルのアクセルやブレーキのタイミング、ステアリングの使い方、コース取りなど、ありとあらゆるデータを、それこそ1000分の1秒単位で収集したりしながら、分析やシミュレーションを繰り返し、オーバーテイクのタイミング、戦略の見直しなどのアドバイスを送ったりします。

 フォーミュラEには「ファンブースト」と呼ばれるユニークなシステムがあり、ファン投票で5位までになると、5秒間だけ出力を上げることができます。そこで、ファンに関するデータを収集・分析し、ここにカスタマージャーニーの質を向上させるマーケティング手法を掛け合わせたりします。

 このプロジェクトの本質は、公知情報、稼働、競合、メンテナンス、顧客からのフィードバックなど、あらゆる情報を分析して勝利に結び付けるという点で、企業経営とまったく同じであり、データドリブン経営のあるべき姿を検証している一面もあります。

 アメリカ、中国やインド、インダストリー4・0で先行したドイツなどに比べて、日本はデジタルで後れを取っているといわれます。

 過去の成功体験によって築かれてきたものが、変革のボトルネックになっています。新しい技術ややり方がすべて正しいわけではありませんが、日本の大企業には、有形無形のレガシーがあちこちに存在しています。しかも、組織の官僚主義やサイロ化のせいで、時代遅れであっても正当化されています。こうしたことが問題であるとわかっていながら、そのまま維持されてしまうところが、日本企業の弱点です。

 ここ数年、“Digitalize or Die”といわれています。それほど単純ではないですが、変革なくして未来はないという意味ではその通りです。そして、その分かれ目はトップのコミットメント次第です。DXは文字通り「変革」です。CDOは言わば変革代理人(チェンジエージェント)であって、最終的にはトップのぶれない覚悟がDX成功のカギではないでしょうか。


  1. ●企画・制作:ダイヤモンドクォータリー編集部