農協の病根#1Photo by Hirobumi Senbongi

JAグループの病根は、腐敗した地方組織を制御できないガバナンスの欠如にある。有力者が組織を私物化し、利益誘導を図るのを上部団体が止めないどころか、お先棒を担いでしまうのだ。特集『農協の病根』の#1では、JAグループのガバナンス欠如の象徴として、京都農協界のドン、中川泰宏氏の一族がJAバンク京都信連から2億円の融資を受けて、その資金で行った「地上げ」の実態を暴く。(ダイヤモンド編集部 千本木啓文)

理不尽な地上げの実行部隊は
中川一族のファミリー企業

 京都駅からJR山陰本線で1駅、京都鉄道博物館がある梅小路京都西駅から徒歩5分という「超好立地」に地上げの現場がある。

 記者が現場を訪れた際、同駅に隣接した全206室の巨大ホテルが開業に向けた仕上げの工事を行っていた。そのホテルの奥に、せり人が行き交う京都市中央市場が広がる。市場の一画(本場に隣接するいわゆる場外市場)が、問題の舞台である。

 発端は2014年にさかのぼる。3815平方メートルに及ぶ土地・建物の所有権がJA京都市から伊藤土木へと移ったのだ。それまでこの地で卸売業を営んできた25の事業者の生活は一変した。

 詳細は後述するが、地上げの構図を分かりやすくするために、登場人物・組織を簡単に整理しておく。

 京都の農協界には“ドン”と呼ばれる人物がいる。それが、JA京都中央会会長を25年間務める中川泰宏氏だ。そして、理不尽な地上げの実行部隊となったのが「伊藤土木」なる企業である。実は、伊藤土木は中川一族のファミリー企業。その登記簿上の代表には中川氏の長女、監査役には中川氏の妻が名を連ねている。

 地上げに話を戻そう。15年1月に、中川氏の次男、泰國氏が「伊藤土木社長」の肩書を名乗って卸売事業者らにあいさつにやって来た(泰國氏はJA京都〈JA京都市とは別の農協〉の常務理事を務めている)。その場で泰國氏は卸売事業者らに対して、「賃貸契約は(今まで通りで)変わらない」と話し掛けた。

 問題の発言はここからだ。その舌の根の乾かぬうちに「共用の水道は止める。トイレは撤去する」と言い放ったのだった。

 呆気に取られる卸売事業者らを残して泰國氏はその場を立ち去った。卸売事業者らが日を改めて設けた「新たな大家」との意見交換の場には、泰國氏本人やその部下が現れることはなかった。