不運と思われる状況のなかに「幸運」が隠れている

 その点、私は幸運に恵まれました。

 私は、入社2年目で、当時、工場立ち上げ真っ最中だったタイ・ブリヂストンに異動。当初は張り切っていたのですが、実際に異国に放り込まれると、想像もしなかったような苦しい経験を強いられました。

 タイは事業を立ち上げる真っ只中でしたから、少ない日本人駐在員で膨大な量の業務をこなさなければなりませんでした。上司には、私を手取り足取り指導する時間的余裕はありません。そんななか、価値観の異なるタイ人たちと、ゼロから事業を立ち上げるという困難な状況に放り込まれたわけですから、非力な若造だった私が苦労しないわけがありません。

 正直、会社を辞めて、日本に逃げ帰りたいと何回か思いました。しかし、当時、海外の給料は国内よりかなり多かったとはいえ、航空運賃は今よりはるかに高かったのでとても支払えない。逃げようにも逃げられなかったのです。

 しかし、その不運と思われる状況のなかに幸運が隠れていました

 当時は、ブリヂストンにとって海外進出の黎明期でしたから、タイ工場には本社の社長・副社長・本部長などのトップ層が頻繁に来ていました。もちろん日帰りというわけにはいきませんから、夜には日本人駐在員一同、トップ層とともに食事をする機会が訪れます。そこで、私は、その後40年にわたるビジネス・ライフを貫く、大きなビジョンと出会うことができたのです。