いま想像できることをはるかに超えたすごい『それ』

 新型コロナウイルス感染拡大の影響で、「かみやんど」も、いま(2020年9月現在)はお休みになっている。再開の時を待つ黄瀬さんは、この春までの様子を現在進行形のかたちでこう語る。

 「一日の仕事が終わってやれやれ、という時間にここに来られる人たちが本当に楽しそうに学ばれています。学習もとてもにぎやかです。新聞の読み合わせと日本語検定という学びの柱はありますが、いろいろな話題に脱線します。日本語だけでなく母語も飛び交います。そんなとき、私がキョトンとしていると必ず誰かが日本語で説明してくれます。私も遠慮せずに日本語で会話に参戦し、日本語とポルトガル語が飛び交います。職場の日本人に仕事以外のことを話したことがなかった人も、ここでの会話に自信をつけて休憩時間の世間話に加わることができたと喜んでいます。日本の学校で子どもが学んでいる内容を理解したいお母さんやお父さん、仕事をよりレベルアップしたい人、なんとなく学校を卒業してしまったけどもう一度勉強し直したい若者、そういう人たちが自分たちの未来を語り合う場が『かみやんど』で、いつもは来られない人も、ときどき相談にやって来ます。特に、ふらっと訪れた若者たちが、70歳を超えた老人がひらがなを学んでいる姿に出会うことは彼らの悩みへのいちばんの答えになっているようです」

 日本語学習広場「かみやんど」が生み出す多文化共生――そのゴールはいったいどこにあるのだろう。地域社会に何をもたらすのだろう。

 「多文化共生とは、ただいろいろな文化が共存するというのでなく、それぞれの文化が関わり合い、響き合って、新しい文化が生まれてくるというものだと思います。いろいろな国の人がいる、もともとここに住んでいる日本人もいる、ずっと前から住んでいる在日コリアンの人、最近住み始めた南米出身の日系人、アメリカ占領時代にパスポートを持って働きにきた沖縄の人――私は、そういう人たちが混ざり合って(溶け合うのではなく)、この地域の文化が更新され続ければいいなと思っています。きっと『それ』がこのまちの魅力となります。『それ』は、いったいどんなものか?……いま想像できることをはるかに超えたすごい『それ』であるはずです」

※本稿は、現在発売中のインクルージョン&ダイバーシティマガジン「オリイジン2020」からの転載記事「日本の「ダイバーシティ」社会に、外国人労働者は何をもたらすか?」に連動する、「オリイジン」オリジナル記事です。