自動車業界の「100年に一度の大変革期」に勝ち残るために、人と組織の面から事業をサポートする原田帯刀(はらだ・たてあき)トヨタ自動車株式会社 先進技術開発カンパニー 先進技術統括部 人事室長。1991年九州大学経済学部卒業後、トヨタ自動車へ入社。海外営業部門を経て、人事部門に異動。本社人事として、製造現場の人事制度構築、海外事業体の人事労務管理支援、幹部・管理者教育を担当。2004年から米国テキサス工場の立ち上げから生産開始までを人事コーディネータとして、人事制度、採用体制、教育プログラムの整備を主導。2012年からはロシア工場の部長・ディレクターとして総務・人事・経理等の管理部門を統括。2016年から、トヨタ自動車のカンパニー制移行に合わせMid-size Vehicle カンパニーの人事室長に着任し、2017年から現職。

中原 自動車会社からサービスまでも視野に入れたモビリティカンパニーへの拡張というのは非常に大きな転換だと思いますが、なぜカンパニー制を導入するのが最適とお考えになったのでしょうか。

原田 最も大きな理由は「スピード感」を速めるためです。先ほど挙げたGoogleやテスラなどの特徴は、スピードがものすごく速いということです。意思決定のスピードも速いし、新しいものを生み出すスピードも速い。これにどう対応するかという話し合いの中で、「小さなトヨタ」という構想がまず出てきました。会社をいくつかのバーチャルな単位に割って「小さなトヨタ」をつくることにより、調整工数を少なくして意思決定を速められないか。ここからスタートして、最終的にはカンパニー制の導入で話がまとまりました。

カンパニー制移行で、
意思決定のスピードが短縮

中原 カンパニー制に移行した当初、現場の方々の反応はどうでしたか。

原田 そうですね。どうしても割ることによる非効率な部分に目が行きがちですから、なかにはネガティブな従業員もいたと思います。

 とくに当社の場合は、過去のアレルギー反応みたいなものがありました。1990年代の終わり頃から技術部門を3つの「センター」に分けて運営したことがあり、そのとき言われたのが非効率の問題、あるいは人材育成の問題でした。要はそれぞれの「センター」の中に人材が囲い込まれてしまい、組織の部分最適によって業務効率が阻害されたり、育成の機会に恵まれにくくなったりと、十分には機能しないところがありました。カンパニー制への構想が出た当初は、その反省というか、「また割るのか」という空気があったように思いますね。

中原 実際にカンパニー制が動き出してみて、どんな効果を実感されていますか。

原田 前述のセンター制は技術部門単独で行った分割でしたから、メリットが必ずしも享受できなかった。しかし今回は、生産部門を含めてカンパニー制に移行したので、以前よりも技術と生産が一体感を持って動けるようになりました。その結果、かなりスピード感が出てきました。

中原 体感的に、どれくらい速くなったと?

原田 業務の内容にもよりますが、必要時間の半減くらいのイメージはあると思います。とくにカンパニー内で決められることに関しては、意思決定までのスピードが大幅に短縮できたという手応えを感じています。