困ってしまったB課長。学歴詐称は確かに良くないが、Aが優秀な社員であることは社内の誰もが認めるところだ。できれば胸に納めておきたかったが隠すわけにもいかず、C社長にその旨を報告した。

 報告を受けたC社長は驚きのあまりしばらくは押し黙ったままだったが、やがて重い口を開いた。

「確かにA君は優秀で、将来の管理職として十分な資質もある。しかし専門学校卒業を大卒と詐称して入社したことは会社を欺いたことになる。それがわかった以上、残念だけど会社には置いておけないよ」

 その言葉にB課長は慌てた。

「じゃあ、クビってことですか?」
「そうせざるを得ないな」
「ちょっと待ってください。第一、今回の件でA君をクビにできるんですか?」
「それは…」

 断言できず困ったC社長はAの処遇についてE社労士に相談することにした。早速E社労士に電話を入れ詳細を説明し、会社訪問を依頼した。そして翌日の午後、B課長を含む3人で面談を行うことになった。

学歴詐称でAをクビにできるのか?
社労士の見解

 「詳細は昨日お話しした通りです。今回の件でA君をクビにできるんですか?」

 C社長はE社労士に尋ねた。

「学歴、職歴などの経歴を詐称して入社後に発覚した場合、必ずクビにできるわけではありません」

 さらに続けた。

「C社長にお伺いしますが、今回Aさんを採用した理由は何ですか?」
「営業としての即戦力です。経歴では前職の旅行会社でも営業を担当しており、しかもかなりの業績を上げていたとのことで期待しました」
「では、学歴に関してはどう思われましたか?」
「まあ、今思えば『大卒だといいかな』程度ですね。採用条件には『高卒以上』で提示してましたので」
「わかりました」

 そしてE社労士は、学歴を含む経歴詐称による解雇が可能か否かの判断基準について説明した。

<経歴詐称による解雇が可能な判断基準>
(1)企業が採用する際に重視している「重要な経歴」を詐称したこと。
   …「重要な経歴」とは、詐称された内容について、もし企業が正確な情報を有していたのであれば雇用契約を締結しなかったであろう経歴のことを指す。
(2)経歴を詐称することにより労働条件等の待遇が良くなること。
   …(例)高卒より大卒の給料が高い、学歴により昇進に差がある等
 (3)該当従業員の経歴詐称が露見したことにより企業の秩序が乱れること。
   …(例)経歴詐称が全社員に知れ渡ってしまった。資格詐称によるコンプライアンス違反、顧客や取引先等への信用維持ができなくなる等
 (4)就業規則等に、経歴詐称した場合の懲戒規程が設けられていること。