働くこと自体が資産
過去2回にわたり60歳以降の「第二の人生」における働き方と、収入獲得と社会貢献を両立できる起業についてお話ししました。今回は、実際に60歳以降も働いた場合、それが家計や資産運用にどのようなメリットをもたらすのか具体的に見ていきます。
サラリーマンや公務員は労働の対価として毎月、給与収入を得ることができます。給与収入は株式の配当や債券の利子と同じ正のキャッシュフローなので、給与収入がある人はキャッシュフローを生む「資産」とみなすことができます。大まかに言うと、その人が今後稼ぐ給与収入の合計が、その人の経済的な価値となります。
ただ、厳密に言うと、給与収入が将来予想されるキャッシュフローである以上、債券や株式、不動産などと同じように、現在時点の価値を計算するには、リスクに見合った利率(割引率)を用いて現在価値に修正する必要があります。つまり、将来の収入は不確実なため、その分割り引いて考える必要があるということです。株式の場合、配当割引モデルを使うのが一般的で、その価値は将来の配当流列を割引計算したものの合計となります。債券の利子は一定ですが、株式の配当はその時々の業績によって変動することから、株式のほうがよりリスクは高くなり、当然、割引率も株式のほうが大きくなります。
この考え方に基づくと、結局、将来のキャッシュフローである給与収入を割引計算して合計したものが、その人の資産としての経済的な価値であり、これを「人的資本」と呼びます。この人的資本には次の三つの性質があります。
(1)給与収入が高い人ほど人的資本は大きい。
(2)若いときは長期間にわたって給与収入が見込まれるため、人的資本は大きい。
(3)給与水準が同じでも、収入が不安定な人より安定している人のほうが人的資本は大きい。