優れたプロダクトマネージャーには、エンジニア、デザイナー、マーケターとしての基礎的な知識と経験が不可欠だ。BCGDV東京オフィスでプロダクトマネージャーを牽引している中尾憲一によると、日本で特に不足しているのは、エンジニアとしての素養があり、最適な技術や開発難易度が「肌感」で分かる、あるいはエンジニアに「正しい質問」ができる人材である。ビジネスやマーケティングが分かる人材はそれなりにいるものだが、エンジニアリングの現場感覚、特にサーバーやデータベース等バックエンドまで含めた開発の複雑性をふまえて、開発の陣頭指揮をとれる人材は極めてまれだ。実際、海外のプロダクトマネージャーは、まずコンピュータサイエンスの学位を取るかエンジニアとして数年の経験を積み、そのうえでMBAも取得するような人が多いように思う。ビジネスとエンジニアリングを、どちらが主従ではなく「両にらみ」できる人材は、優れたプロダクトをつくり上げるのに欠かせない要件だ。

 ここまで聞くと、なんでもできるスーパーマンのように思われるかもしれない。実際、このような人材は国内には極めて少ない。「完璧な人を採用したい」と考えるばかりではいつまでも採用は進まないので、現実的には、たとえばサービスの立ち上げを数多く経験し、かつビジネス感覚もあるエンジニアを採用し、デザインやマーケティングといった足りない部分は他のメンバーの知見を掛け合わせることが現実的だろう。あるいは、マーケティングなどビジネス側の経験がある人材の中から、ある程度業界のトレンド技術が分かる人を育てる手もある。

いかに人材を獲得するか
(1)まずは自前で、は大きな間違い

 これら3つの職種はいずれも非常に高度な専門スキルを持つ人材であり、一朝一夕に獲得することは難しい。

 多くの企業はこうしたスキルを社内に蓄積しようとする際、「まずは小規模に、自前でやってみよう」と考えがちだが、これは間違いのもとだ。なぜなら、ノウハウがないままスキルを内製化しようとすると早々につまずき、これが失敗経験となって、新規事業そのものにしり込みしてしまうか、あるいは外注先への「丸投げ」に走る傾向につながるからだ。そしていったん外注先に骨抜きにされてしまえば、いつまでも自前化できない負のループに陥ってしまう。

 新しい組織能力を獲得することをめざすのであれば、とるべき順番は逆だ。最初にプロの力を借り、いずれ自分のものにしていくのだ。「自前主義」という考え方自体が間違いだと言っているわけではない。以前の記事でも述べた通り、自社にとってコアとなる部分については、最終的には自前化を目指すべきである。ただし、そこに至るまでの順番を間違えてはならない。