民主党からも嫌われていたエリートたち
彼女は2020年の民主党大統領候補の予備選でも、「Corrupt Washington(ワシントンは腐敗している)」と、ワシントンに約200あるシンクタンクの専門家を批判しました。これは2016年の予備選でバーニー・サンダース上院議員が主張していたこととも同じです。彼は2020年の予備選でも同じ主張を繰り返していました。
これは、民主党内での話です。
一方、トランプ大統領も自分をバカ呼ばわりした署名活動にサインした外交専門家など、ワシントンのエリートたちの多くを毛嫌いしています。彼らを政権運営のチームに招くつもりはないようで、今でもトランプ政権では全ポストの3分の1が埋まっていません。指名をしても、トランプ大統領の下では働きたくないと辞退をする人がいるのも事実です。
トランプ大統領とウォーレン上院議員、サンダース上院議員に共通するのは、ワシントンのエリートたちの中には既得権益を手放さず、米国にとって本当に大切なことは実行しない人が多いという見方です。彼らはワシントンのエリートたちを「米国がその時々で抱える問題よりも、自分たちが信じる思想とそれを支持する組織の利益を優先する人々」と定義しているようです。こうした批判はこの先も続くはずです。
新型コロナウイルスによって、トランプ政権は図らずもサンダース上院議員が実現しようとしていた「全国民に医療保険を」という政策を部分的に達成しました。
その過程でトランプ大統領は記者会見に保険会社のトップを同席させて、「新型コロナウイルスで必要な医療費は保険で全額賄う」と発言させています。
こうした対策が必要であることは、当然ながらワシントンのエリートたちも理解していました。しかし研究費を支払うスポンサーでもある保険会社のトップにそれを要求する胆力は、彼らにはなかったようです。その証拠に、保険会社のトップがこの話を持ち出す前まで、どのシンクタンクからもそうすべきであるという提案は出ていませんでした。
仮に新型コロナウイルスの医療費が保険で賄われなければどうなるでしょう。明らかに感染している人でも医療費が払えずに治療できなければあっという間に感染は拡大し、より深刻なパンデミックへ発展します。
つまり国のことを考えれば、ワシントンのエリートたちは保険会社に「新型コロナウイルスで必要な医療費は保険で全額賄うべきである」と実施方法の案を付けて助言すべきだったのです。それが出てこなかったということは、彼らはやはり国益より自分たちの立場を優先させたと言われても仕方ありません。
そんな彼らに政治家や国民は明確な不信感を抱いています。トランプ政権になって、必要なポストが埋まらなくても米国の政治や経済は回っています。つまり彼ら自身がその不在によって、自分たちが不要であると証明してしまったのです。
既に2018年頃から、日本の企業幹部や官僚がワシントンのシンクタンクなどを訪れても、トランプ政権や民主党議会などの本音が聞けないという話が出ていました。2021年以降、民主党政権になっても、登用されるのは民主党の専門家になるだけです。民主党は新しい発想を求めるでしょうから、新たなエリートたちが活躍し始めることになるでしょう。
これまでの専門家たちの中には全米の大学に移る人も増え、この先数年もすると、ワシントンのエリートたちの数はトランプ政権になる前と比べて減るかもしれません。分析や研究をする専門家たちが新たに登場することになるでしょう。
米国にはワシントンのエリート以外にも純粋に米国のことを考える優秀な研究者たちがたくさん存在しています。きっとこれからは彼らにも焦点が当たるのでしょう。