地域に根ざした会社が延命していくためには…
玉腰 そんなOさんたちが日本に来て1年ほどたったときのことです。会社の仕事が繁忙を極め、納期に対応するために、社長はOさんにいつもより高度な作業を任せることにしました。溶接の仕上げにあたる工程で、丁寧さが要求される仕事でした。
社長の指導のもとで、Oさんは練習に練習を重ねました。何度もダメ出しを受けながら、徐々に自分でコツをつかみ、最後にはきれいに仕上げられるようになりました。
納品の際、厳しい品質チェックが行われ、関係者のみんなが固唾(かたず)をのんで待ったところ、結果は無事合格でした。Oさん本人はもちろん、社長も先輩社員もみんなが達成感を感じた一瞬でした。
しかも、納入先のベテラン技術者には、「普通はもっと楽な姿勢で作業しないとあのような均質な溶接にならないのだが、彼は筋力と集中力で作り出している。日本人のわたしたちにはとても真似(まね)できない」と驚嘆されたのです。社長が日頃からOさんの仕事を見守り、一段高い仕事を与えられると信頼し、Oさんがその期待に応えようと力を振り絞った結果でした。
ちなみに、Oさんの試行錯誤を傍で心配しながらずっと凝視していたJさんも、Oさんの技能を見て覚え、同じ作業ができるようになったといいますから、連帯感のあるチームというのはすごいものです。
社長の口癖は、かねがね、「彼らが母国に戻ってから、日本は良かったと思い出してほしい」でした。わたしは、社長の思いはきっと叶うような気がしています。
この会社などは、実習生が地域に溶け込み、日本的で丁寧な職人仕事を身に付けてスキルアップしており、外国人実習制度の成功事例といえると思います。
しかし、こうしたエピソードをお話しすると、「低賃金の外国人を入れなければつぶれてしまうような生産性の低い会社はつぶれてしまったほうがよい」「競争力のないゾンビ企業の延命に外国人実習制度が加担している」というような、よく目にする批判がここでも聞こえてきそうな気がします。なので、もう一言、付け加えさせてください。
かつて1990年代、賃金の安い中国に工場を移転させたために、日本の産業界が空洞化し、地方の消費が低迷し、商店街がシャッター街となり、地方がうらぶれました。あの過ちは繰り返してはいけないと思います。地域に根ざした会社が延命できるならば、延命の手を尽くすべきではないでしょうか。そのために、ハローワークに求人を出して日本人が来ないのなら、外国人で来てくれる人がいたら来ていただき、少しでもにぎわいを作り出す努力を地方はし続けるべきではないでしょうか。仕事の火は一度消えたら取り返しがつきません。何とかつなげていこうとする努力こそ、称賛されるべきだと思うのです。
例にあげた鉄工所では、まさに仕事の火を消さなかった。その意味でも、この会社は、成功例だといえるでしょう。
※本稿は、現在発売中のインクルージョン&ダイバーシティマガジン「オリイジン2020」からの転載記事「外国人労働者との付き合い方が、これからの企業の生命線になる理由」に連動する、「オリイジン」オリジナル記事です。