この時点で、同社人事部はすでに、優れたマネジメント手法としては、部下にタスクを細かく指示して管理する「上意下達型」ではなく、仕事を任せることで自ら考えるように促し、力を引き出して育てる「コーチング型」の方が、自律的な部下を増やすと考えていた。しかし、それが現場の管理職に伝わりきっていないのではないか、と実感したという。
「これからの時代に必要なマネジメントスタイルは『コーチング型』だと、多くのマネジャーが知ってはいる。しかし、上意下達型のマネジメントスタイルで育った人たちは、それで部下たちから本来の成果が出るのか疑問を持っている人が多く、腹落ちしていないからこそ浸透しないのではないかと感じた」(佐竹部長)
そこで同社が決めたのが、部下を自律的な社員に育てて結果も残せる優秀なマネジャーはコーチング型だと、人事データを活用して「証明する」ことだった。
SEを対象に2400人を調査
明らかになった「優れたマネジャー像」
まず、2019年度にリクルートマネジメントソリューションズの協力を得て行ったのが「Fujitsu Management Discovery」という取り組みだ。富士通全体では5~6割の社員がシステムエンジニアであり、まずは彼らの実態をつかむことが大事だと考えた。そこで、テクノロジーソリューション部門の約400名のマネジャーと約2000名の社員を対象にアンケートを実施し、分析。そこから、優れたマネジャーとそうではないマネジャーの差を明らかにしていった。
そして、これら多くのデータから富士通の「優れたマネジャー像」を一般化していったところ、高い成果を上げているマネジャーの4人に1人は、一般社員からのマネジメントに関する評価は低い上意下達のマネジメントスタイルを取る「ストロング型」。残りの4人に3人は職場マネジメントアンケートでも成果の高い、コーチング型のマネジャーであることが分かったという。
「優れたマネジャー(コーチング型)とストロング型のどちらも高い成果を上げているが、優れたマネジャーの下ではチームの成果が長続きする一方、ストロング型では長続きしないことが分かった。これによって、私たちの『コーチング型のマネジメントが優れている』という仮説が証明できて、ほっとした」(佐竹部長)
今回の分析は、エンジニアを対象に行われたことで、対象社員の中には統計学などに詳しい理系人材も少なくなかったが、結果に対して「優れたマネジャーに必要なことが具体的に分かった」「納得感があった」という声も多かったという。