企業の世界でも、商品が予定通り売れない場合や、競合他社が対抗措置を取ってきたような場合に備えて、いわゆる「プランB」を用意しておくことは常識的な考え方だ。「プランB」を考えることができないリーダーに、部下は「危なくてついて行けない」と思うに違いない。

 例えば、国会議員が首相に、新型コロナウイルス対策に伴う緊急事態宣言の再延長があり得るかと質問する。これに対して、常識的な返答は、将来時点の感染状況なり病床の使用状況なりを場合分けして判断の基準を示し、「何日の時点で、○○の状況なら△△するし、××なら□□する……」といった判断の考え方を示すものだろう。

 もしも2週間後に宣言を延長するかどうかを決めるなら、意思決定をするリーダーが、今の時点で複数の行動案と判断の基準を持っていないとすると大問題だろうし、行動案と判断基準を実は持っているのに国民に示さないのだとすると、コミュニケーション不足であって職務怠慢だ。

「今の時点ではお答えできない」も
「専門家の意見を聞いて考える」もダメ

「今の時点ではお答えできない」と答えるのは、「仮定の質問」に答えない変形バージョンだ。質問者に対して、「お前の質問は意味がない」と遠回しに言っているのと変わらない。「専門家の意見を聞いて考える」も同様にダメだ。何も答えたことになっていない。専門家の意見はこれまでにもさんざん聞いてきただろうし、質問者は、将来事情の変化はあるとしても、「今の時点でどう思っていますか」と聞いている。答えられる考えがないなら大問題だし、答えたくないというのは失礼で怠慢だ。

「仮定の質問」に答えなくてもよいとする態度は、官僚や企業のトップなどの受け答えにもしばしば見られる。特に、不都合な状況を想定した質問に答えようとしないのは、あたかも「悪い事態について口にするとそれが実現してしまう」という言霊信仰があるかのようだ。

 いずれにせよ、「仮定の話」に答えないのでは議論は深まらないし、意思決定は危うい。それでやりとりが済むのは、質問者も回答者も形式的なやりとりが大事で、問題自体が大事だと思っていないのだろう。記者会見の映像を見て、「つまらない儀式だな」と思うことが多い大きな理由の一つだ。