積極的なリスキリングの
背景にある「コスパの高さ」
海外企業が多額の資金を投じてリスキリングを行うのには、理由があります。DXの波は全産業に及んでいるため、データサイエンスやAI・機械学習などの高度なスキルの保有者の獲得競争は熾烈を極めています。またそれほど高度ではないスキルであっても、現在の担当者をすべて入れ替えようとすれば、時間もコストもかかるでしょう。そのため、デジタルスキルを保有する人材を社外から採用するよりも、社内で育成する方が、よほどコストがかからないとの見方が広がっています。
さらにリスキリングによって人材を内部育成すれば、企業文化を維持しやすく、従業員に就業を通じたより優れた経験(Employee Experience)を得られることを、アピールできるというメリットもあります。
実際、リスキリングに取り組む企業からは、取り組みの効果の高さも指摘されています。前出のAT&Tのウェブサイトによれば、社内の技術職の81%が社内異動によって充足されているといいます。
またリスキリングのプログラムに参加する従業員は、そうでない従業員と比べ、年度末に1.1倍高い評価を受け、1.7倍昇進している一方、離職率は1.6倍低いといいます。リスキリングは、急速な変化を続けるビジネスの世界で、DXを担う人材を確保し続けるための有望な策となっているのです。
日本は海外から学び
リスキリングの加速を
これまで見てきたように、海外の先進企業は大量の資金を投入し、思い切った従業員のリスキリングに取り組んでいます。なかでもAT&Tの事例にみられるように、単に講座を提供するだけでなく、従業員が自ら必要なスキルを学び、次のキャリアに移行していくための環境を包括的に提供していることは参考になります。
一方、多くの日本企業にとってリスキリングは始まったばかりで、海外企業に対して後れをとっていることは間違いありません。しかし後発だからこそ、海外企業の経験から学び、日本型のリスキリングを効率的に推進することも可能なはずです。海外企業のリスキリングの事例は、そのための大きな示唆を与えてくれるのです。
(リクルートワークス研究所 主任研究員 大嶋寧子)
【参考文献】
・Aaron Pressman, "Can AT&T retrain 100,000 people?," Fortune, March 13,2017
・CNBC, "AT&T’s $1 billion gambit: Retraining nearly half its workforce for jobs of the future," March 13, 2018
・John Donovan and Cathy Benko, ”AT&T’s Talent Overhaul,” Harvard Business Review, October 2016
・William R. Kerr, Joseph B. Fuller and Carl Kreitzberg, "AT&T, Retraining, and the Workforce of Tomorrow," Harvard Business School Case 820-017, July 2019 (Revised May 2020)
・Trisha L. Howard, "Reskilling Revolution -Robust Economy, Obsolete Jobs Drive Need for Continuous Learning" World at Work, August 2019
・AT&T Issue Briefs
・How to Build a Culture of Learning