VRを使用して
効率的な学習を行うウォルマート

 社内研修にバーチャルリアリティ(VR)を用いているのが、世界最大の小売りチェーンであるウォルマートです。同社は2016年に試験的に5店舗にマシンを導入し、2018年9月には約1万7000台を全米の店舗に導入しています。

 VRを利用した訓練として、たとえば、年に1度の大規模セール「ブラックフライデー」のような、頻繁ではないイベントや自然災害などのトラブルに備えて、実際の経験がない従業員でも即戦力となれるスキルを身につけるプログラムがあります。また、新たな設備を店舗に導入するなどの場合にも、VRを用いて事前に取り扱い方法を身につけることが可能だといいます。

10億ドル投資! 
AT&Tの「野心的なリスキリング」

 取り組みの先進性や包括性という点で、「米国企業史において、最も野心的なリスキリング」と言われているのが、通信事業者であり、ワーナーメディアを傘下に抱える巨大メディア事業体でもあるAT&Tが行った取り組みです。

 2000年代に入ると同社は、スマートフォンの拡大や通信の高速化といった、通信業界の革命的な変化に直面します。急激な経営環境の変化の中で同社が決断したのは、2020年までに事業の柱を、それまでのハードウェアからソフトウェアシステムに転換する、というものでした。

 このように事業戦略を大きく転換しようとすれば、そのために必要なスキルを持つ人材を社内に確保する必要があります。ところが2008年に行った社内調査で明らかになったのは、従業員25万人のうち、事業に必要なデータサイエンスやエンジニアリングのスキルを持つ人は約半分に過ぎず、約10万人は10年後に存在しないと考えられる仕事に就いているという、衝撃的な事実だったのです。

 そこで同社は、従業員のリスキリングに乗り出します。2020年までに自社でどのようなスキルセットが必要になるのかを特定したうえで、2013年に10億ドルを投じて、10万人のリスキリングを行う「ワークフォース2020」をスタートしました。