時代や環境変化の荒波を乗り越え、永続する強い会社を築くためには、どうすればいいのか? 会社を良くするのも、ダメにするのも、それは経営トップのあり方にかかっている――。
前著『戦略参謀の仕事』で経営トップへの登竜門として参謀役になることを説いた事業再生請負人が、初めて経営トップに向けて書いた骨太の経営論『経営トップの仕事』がダイヤモンド社から発売。好評につき発売6日で大増刷が決定! 日本経済新聞の書評欄(3月27日付)でも紹介され大反響! 本連載では、同書の中から抜粋して、そのエッセンスをわかりやすくお届けします。好評連載のバックナンバーはこちらからどうぞ。
シナリオになかった想定外の事態を乗り越えて、
前に進むことのできる力が「実践力」
「戦略」は、目標となる「頂(いただき)」に向かうためのシナリオです。シナリオは、どんなに精緻に作り上げたとしても、その通りにことが運ぶことはほぼありません。
たとえば、「登頂プラン」を作成する際に上空から撮影した写真には写っていなかった断崖絶壁が突然、目の前に現れたりします。また途中で熊と遭遇してしまうなど、予期せぬ出来事が必ず付きまといます。
だからと言って戦略立案など要らないとの結論は、短絡的すぎます。事前の調査に基づいてプランを作ってあれば、
「左側に回り込めば、少し遠回りでも進める道があるはず」
「右側の道を塞いでいる大木は、電動のこぎりを運んで来させれば、切り離し道を進むことができる」
などの二の手、三の手を見出すのにも役立ちます。
そうすると経験的にも実際の舵取りの際に、
「ここは見えている」
「ここは、さらに情報を集めておこう」
「ここは、行ってみないとわからない」
という議論が行いやすくなり、現状把握に基づくシナリオ策定、つまりPDCAのPを正しく行っておくと、事業の成功確率が上がります。
つまりPDCAが廻るたびに、「戦略」という名のご本尊となるマップが修正され、精度が上がり、そのマップを読み取る力も上がっていくのです。
これらの想定外の事態を乗り越えて、前に進むことのできる力が「実践力」と言えます。
この「実践力」に必要なのは個人・組織にかかわらず、次の6つです。
(1)事実にもとづき、常に見通しを描く先読み力
(2)経験によって描かれた土地勘と事業観
(3)イレギュラーへの対応の場数から得られた判断力
(4)「(未知の課題でも)これまでなんとかしてきたから、なんとかできる」という自信と、「やりきろう」という気力と執念
(5)それを支える、プラットフォームとしてのマネジメントの姿勢や組織文化
(6)実行過程で明らかになった事実に基づく、CによるPの見直しの繰り返しの徹底