復権の幻想#3Photo:AFLO、belterz/gettyimages

東北新社に端を発した接待問題はNTT(日本電信電話)へ飛び火し、総務省は2001年に設置されて以来の大スキャンダルに見舞われている。そんな中で、ただ独りほくそ笑んでいるのが旧自治省官僚だ。通信行政を一手に掌握してきた谷脇康彦・前総務審議官ら旧郵政官僚が失脚することで、総務省上層部ポストが転がり込むかもしれない千載一遇のチャンスが訪れているからだ。特集『NTT帝国 復権の幻想』(全5回)の#4では、壮絶なポスト争いの行方を追うとともに、霞が関官僚のNTTグループへの天下りの実態も明らかにした。(ダイヤモンド編集部副編集長 浅島亮子)

「半導体・エネルギー政策」の会合にも参画
経産省に食指を動かすNTTでも総務省失速は打撃

 世界で半導体の需給が逼迫しているさなかに、大手半導体メーカーのルネサスエレクトロニクスで火災が発生し、自動車メーカーなどの国内製造業が半導体不足で大混乱に陥っている。

 半導体はデジタル産業の要であると同時に、経済安全保障を担保するための“戦略物資”でもある。そのため、主要国・地域では、半導体のサプライチェーン(供給網)を確保するための国家間競争が激化しているのだ。

 ルネサスの火災から間もない3月24日、経済産業省は第1回の「半導体・デジタル戦略検討会議」を開催した。その目的は、凋落した国内半導体産業が、素材や製造装置の強みを生かして世界の半導体エコシステムの“チョークポイント”として存在感を発揮する戦略を構築することである。

 この重要会議のメンバーとして、澤田純NTT(日本電信電話)社長が名を連ねている。NTTにとって、半導体は5G(第5世代移動通信システム)産業に欠かせない基幹デバイスだ。その上、傘下のNTTエレクトロニクスは製造ラインを持つれっきとした半導体メーカーでもあり、NTTにとって半導体政策は重要な意味を持つのだ。

 もう一つ、澤田社長が出席する霞が関の会合がある。エネルギー基本計画の見直しに影響力を持つ「総合資源エネルギー調査会基本政策分科会」がそうだ。いうまでもなく、脱炭素社会の実現には、再生可能エネルギーの普及を踏まえたエネルギー戦略が欠かせない。

 半導体とエネルギー。いずれも経産省マターの重要会合にNTTが顔を出すようになっている。この背景には、NTTに世界のICT領域に出遅れることへの危機感があったからに違いない。各国の通信政策は機微技術と関わるため、政策のバックアップが不可欠だ。グローバル競争とは無縁だったNTTが、内弁慶の総務省のみならず、経産省にも食指を動かすのは、当然の成り行きであろう。

 これまで、通信行政を所管する総務省べったりだったNTTが、経産省の懐に入り込める政治力はさすがとしか言いようがない。

 それでも、NTTと東北新社のスキャンダルにより、“運命共同体”である総務省は壊滅的なダメージを受けた。通信行政を担う旧郵政省の弱体化は、ボディーブローのように、NTTの将来戦略に暗い影を落とすことにもなりかねない。

 すでに総務省では、今夏の官僚人事に向けて「ポスト争い」が勃発している。旧郵政省と旧自治省の間で壮絶なバトルの火ぶたが切って落とされたのだ。