復権の幻想#5Photo:AFP=JIJI

NTT(日本電信電話)が総務省を接待していた問題は収束の兆しが見えない。NTTと総務省の不透明な関係に疑惑の目が向けられる中で、KDDIやソフトバンクなど競合は、NTT再編そのものの阻止に向けて徹底抗戦の姿勢を強める。両者の対立を解消して妥協点を探る役割を果たしてきた総務省は、自らが「脛に傷」を持つ身で、混乱を収拾できずにいる。特集『NTT帝国 復権の幻想』(全5回)の最終回では、暗雲の立ち込めるNTT再編の行方を探る。(ダイヤモンド編集部 村井令二)

ドコモ完全子会社化を果たしたNTTが
一段のグループ再編に乗り出せない理由

「NTTのグループ再編を制約する法律はないが、今すぐに動かれては困る」

 NTTドコモを完全子会社化したNTTが「次の一手」として、ドコモによるNTTコミュニケーションズ(NTTコム)とNTTコムウェアを子会社化するグループ再編を表明していることについて、総務省幹部は思わず本音を漏らした。

 総務省は、NTTによるドコモの完全子会社化を受けて、その弊害と対応策を議論する有識者会議「公正競争の在り方に関する検討会議」を2020年12月に設置して、3月3日の会合で報告書案をまとめた。その直後に発覚したのが、NTTによる総務省幹部の接待問題である。

 この不祥事を受けて、「行政の公正性に疑義が生じた」と主張するKDDIとソフトバンクなどNTTと競合する通信関連21社は4月5日、有識者会議の議論のやり直しを求める意見書を公表した。

 競合各社が反対の矛先を向けているのが、ドコモによるNTTコムとNTTコムウェアの子会社化だ。その姿勢は強硬である。報告書の議論の見直しがなされる前に、NTTがグループ再編を一方的に進めることがないように、総務省に対して「指導の徹底」を求めている。

 総務省は途方に暮れている。NTTのグループ再編を禁止する法令は存在しないのだから、NTTの「次の一手」であるドコモによるNTTコムの子会社化は、法令違反とはならない。

 しかし、NTTがグループ再編を強行すれば、接待問題で炎上中の総務省とNTTの不透明な関係を疑う競合各社の反発を招き、混乱は不可避だ。

 だからこそ、総務省は「すぐに(NTTが)動いては困る」との意向を漏らすのみで身動きが取れない。一方のNTTも、予定していた再編に乗り出すことができずに宙ぶらりんの状態を余儀なくされそうだ。

 こうした総務省と事業者の「あうんの呼吸」で重要事項が決まるプロセスこそ、通信行政の不透明さを象徴していると言わざるを得ない。両者の蜜月により見えにくかった買収プロセスの問題が先送りされたままNTTの再編が進められようとしていたのである。