「台湾も日本と同じく、インバウンドが全滅したことによる経済的ダメージを受けています。特にホテル業は当初、大きな打撃を被った(その後徐々に持ち直した)。ただし日本と違うのは、コロナの感染拡大防止に成功し、パンデミック以前の生活が継続しているので、国内の消費が落ちこんでいないという点です。むしろ、かねてより増加傾向にあった海外への旅行者が地元にお金を落とすようになったため、昨年の国内での民間消費は2019年よりも伸びています」

 コロナ禍において台湾国内の消費活動が活発化している背景には、台湾政府が昨年7月に発行した「振興三倍券」の存在も大きい。1000台湾元(約3800円)の負担で、3000台湾元(約1万1500円)の消費ができるチケットが国民のほぼ全員に配布され、飲食業や小売業の売り上げアップに寄与している。当初試算されていた1000億台湾元(約3800億円)を上回る経済効果をもたらすことに成功したのだ。

 他国がロックダウン(都市封鎖)を繰り返す最中、経済活動が停滞せず、国内消費が高い水準をキープしていること。これが台湾経済に勢いをもたらしている二つ目のファクターだといえるだろう。

中国離れの進行で
人材が国内回帰

 台湾経済を考える上で、中国との関係は無視できない。2000年代以降、中国の経済成長は目覚ましいが、特に2015年から2018年にかけて、台湾の若い働き手や新興企業が活路を求めて中国に流出する動きが顕著になっていた。しかし2019年に香港で大規模な民主化デモが勃発して以降、趨勢はガラッと変わったという。

「台湾社会では民主化を求める香港市民のデモへの共感が強く、抗議活動に対して暴力的な対応をとる中国政府の姿勢を見て、多くの台湾人は不信感を抱き、中国離れが急激に進行しました。台湾政府は同時期に、米中貿易摩擦を受けて中国から拠点を戻す企業に対し、用地探しの支援や融資面での優遇策をもうけるなど帰国投資への支援を強化。2000年代以降問題になっていた若者の低賃金問題も改善の兆しを見せ始めました。これを受けて、中国で活動していた企業や働き手の多くが台湾に戻ってきたんです。この動きはコロナ禍以降加速しています。これが台湾経済に活況をもたらしている3つ目の要因です」

 コロナ前の生活を享受しながら、コロナで作り出された需要を取り込むことによって、他国がうらやむ経済成長を見せている台湾。この好況は今後も続くのだろうか。

「今後の台湾経済を占う上でポイントになるのは、半導体産業と米中経済摩擦の動向です。先述の台湾経済を支える重要企業であるTSMCは、かねて中国の通信機器メーカーであるファーウェイを大口の取引先としていましたが、昨年5月に中国企業への圧力を強める米国政府が輸出規制策を強めたため、ファーウェイへの半導体の輸出ができなくなりました。このときはファーウェイに代わる取引先をすぐに確保することができたため損失はありませんでしたが、今後も米中対立に巻き込まれる可能性はあります。また、製造企業の台湾への帰国投資もコスト増の要因です」

 米国と中国という2つの経済大国の間に立たされているという意味で、日本と台湾の境遇は似ている。コロナの封じ込め対策はもちろん、米中両国に対する経済的な立ち振る舞いにおいても参考にできる点は多いはずだ。