(3)クッションのずれタイプ:骨と骨の間にある組織のずれにより発症

 顎関節の骨と骨の間にある関節円板は、円板といっても円形ではなく、板状の硬い線維組織です。関節円板は骨と骨が直接ぶつかるのを防ぐクッションの役割をしますが、これが骨の上から落ちてしまい発症するタイプです。

 このタイプには2種類あり、1つは口を開けるときに音が鳴る「ポキポキパターン」。口を大きく開けると、前にずれていた関節円板が骨の上に戻ろうとして、骨と骨との間をすり抜けるときに「カクッ」とか「ポキッ」と音が鳴るパターンです。この場合、ほとんどのケースで痛みはありませんし、口も十分に開きます。ですから治療の必要はありません。

 もう1つは口を開けようとしても骨が関節円板に引っかかり動かなくなる「引っかかりパターン」。「関節円板のずれが原因なら、元の位置に戻せば治る?」と思うかもしれませんが、例え戻せても症状が改善しないどころか、むしろ悪化することもあります。ですから「ずれを治す」のではなく、「痛みをとる」「口が開くようにする」が治療の目的となります。

 このパターンは、口を大きく開けようとすると痛みが出ます。また口を開けると引っかかっている関節側に顎が歪んで動くので、顔が曲がって見えます。自分で対処することは難しいので、早めに専門機関で診てもらいましょう。重症化すると、内視鏡を用いた手術が必要になることもあります。

(4)骨の変形タイプ:顎関節の骨の変形により発症

 関節円板がずれて骨同士が直接ぶつかるようになり、さらに加齢で軟骨が薄くなると、骨への負担が大きくなって、やがて骨が変形することがあります。このタイプは中高年の方に多く発症します。

 関節に鈍痛が続いたり、口が開けにくくなったり、口を開けたときに骨と骨が擦れて「ザラザラ」した音がしたりします。画像検査(レントゲン、CT、MRI)で診断しますが、治療には長期間かかることがあるので早めに診てもらいましょう。

 顎関節症と同じ症状が出る疾患は56種類以上ありますから、それらとの鑑別診断が必要となります。顎関節症と思っていたら「がん」だったケースもあるので、症状がある場合は自己判断せずに早めに専門医療機関で受診しましょう。日本顎関節学会のHPでは、専門医が調べられます。

(監修/歯科医師・幸町歯科口腔外科医院・院長 宮本日出)

◎宮本日出(みやもと・ひずる)
歯科医師、幸町歯科口腔外科医院院長。日本顎関節学会・代議員・指導医・専門医、厚生労働省認定歯科医師卒後臨床研修指導医教官。1965年、石川県金沢市に三人兄弟の末っ子として生まれ、猛勉強を始め、愛知学院大学歯学部に合格。のちに歯科医師免許取得。現在では、国内外に160篇以上の論文を発表し、複数のメディアにも登場するカリスマ歯科医となる。