ダイヤモンド社の書籍編集局では、いま中途採用で編集者を募集しています(詳しい募集要項はダイヤモンド社の採用情報ページおよび「マイナビ転職」をご覧ください)。そこで、現場で働く編集者たちに、職場の雰囲気、仕事内容、一緒に働きたい人物像などについてインタビューしました。ホンネ炸裂のトークをお読みいただき、我こそは!と思われた編集者の皆さまは、ぜひともご応募ください。応募〆切は「2022年6月6日(月)」です。本記事では、ダイヤモンド社でサイエンス書などの教養ジャンルを切り開く編集者・田畑博文の、立ち読みで終わらない、つい「買いたくなる」本作りの秘訣などをご紹介します。(→他メンバーのインタビュー記事および座談会記事もぜひお読み下さい!)
ビジネス書以外の
新しいジャンルで突き抜けるために
──最初に、ダイヤモンド社に転職しようと考えたきっかけを教えてもらえますか。
田畑博文(以下、田畑) もともと教養ジャンルの本を担当していたのでビジネス書にはあまり詳しくなく、ダイヤモンド社はビジネス書に強い出版社という印象で遠巻きに見ていました。でも、『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』が出た2009年以降、続々とベストセラーを出していたので注目するようになったんです。
田畑博文(たばた・ひろふみ)
大学卒業後、編集プロダクション、出版社2社を経て2019年入社。担当書籍は『若い読者に贈る美しい生物学講義』『とてつもない数学』『16歳からのはじめてのゲーム理論』『死の講義』『世界史は化学でできている』『WHAT IS LIFE? 生命とは何か』『すばらしい人体』など。
その後、この採用記事のような、本作りの工夫について編集者が語っている記事を見るようになり、ダイヤモンド社の環境に魅力を感じました。
──ビジネス書にあまり詳しくない田畑さんが、ダイヤモンド社に魅力を感じた理由について、もう少し詳しく聞かせてください。
田畑 児童書や女性向けの実用書など、ビジネス書以外のジャンルで実績を出している編集者がダイヤモンド社に続々と転職している印象がありました。
彼ら彼女らがベストセラーを出しているのを見て、ビジネス畑ではない編集者でも活躍できる会社なんだと思ったんですね。ダイヤモンド社=ビジネス書という認識が変わり、「新しいジャンルの本を売っていく風土があるなら、私がやりたい教養ジャンルの本でも売り上げを伸ばせるんじゃないか」と考えました。
また、細部まで本を作りこんでいる編集者がたくさんいて、そんな環境で切磋琢磨しながら仕事ができることにも魅力を感じました。ある勉強会でダイヤモンド社の編集者に会い、「目次づくりの著者打ち合わせに30時間かける」とか「ライターに原稿を書いてもらうけれど、自分でもサンプル原稿を書いて突き合わせながら方向性を探る」とか、突き抜けたやり方を聞いて、こんな編集者に囲まれて仕事をしたいと思ったんです。
──なるほど。実際に活躍している編集者を見て、その環境に魅力を感じたんですね。営業や販売に対するイメージはどうでしたか?
田畑 採用記事で製販一体の本作りを大切にしていると知り、協力して本を売る体制に魅力を感じていました。編集部と営業部は、事業がうまくいかなくなると、どちらかに原因を押し付けようとしがちです。ダイヤモンド社のように協力し合えるのは理想的な状態だと思います。
──実際に入社されて、編集者としての学びはありましたか?
田畑 それぞれの編集者が売れる本作りのノウハウを持っているので、編集者の数だけ学びがありますね。これだけ多様なノウハウがあるのは、ダイヤモンド社が個々人の個性を尊重しているからだと思います。原価管理も編集者に委ねられていますし、とにかく自由度が高い。座席のレイアウトも、編集長がお誕生日席に座って部員を見渡すような島状のものではなく、フラットで自主性を重んじられた形になっています。
本づくりに集中し
全力でやり切れる環境
──仕事をする環境としては、どう感じていますか?
田畑 サポートがかなり手厚く、本作りに集中できる職場だと思います。会社の自席には十分なスペースが確保されていますし、コロナ禍でリモートワークになり「タブレットを活用したい」と言ったら迅速に対応してくれました。他にも制作部署が定期的に新進気鋭のデザイナーさんを紹介してくれたり、翻訳本を作る際に版権部署が手掛けたいテーマに適した企画を紹介してくれたりと、きめ細かいサポートを受けられます。こうしたバックアップは仕組み化されていて、編集者にとって働きやすい環境が整っていますね。
──入社してから田畑さん自身の変化はありましたか?
田畑 万全のサポートで自分の時間が確保できるようになったので、本を作る・売るために必要なことを考える余裕ができて、企画・原稿・宣伝にかける時間が圧倒的に増えました。編集者としての仕事に集中できます。これがダイヤモンド社で働く醍醐味だと思います。いい本を作って、売るために最大限の努力をして、全力でやり切る気持ち良さは何にも代えがたいです。
──一方で、自由である代わりに、言い訳できない厳しさもあります(笑)。田畑さんの同期には先行してベストセラーを出した編集者が複数人いましたが、プレッシャーもあったのでは?
田畑 それほど感じていません。他の編集者とは作っている本が違いますし、部数ばかりに気を取られると本作りがブレると思っているので、あまり気にしていません。むしろ同期の活躍はうれしいですし、いい刺激になります。前職からの習慣で、勉強のために定期的に売れている本のタイトルや帯コピーを手書きで写して、その本を作った編集者の思考を模写するようにしているのですが、同期の2人はとても優秀なので、模写しながら唸らされる。同僚から学ぶことは多いです。
本の「色気」をどう作るか?
「読みたい本」より「買いたい本」を
──田畑さんは2019年4月の入社以来8冊を担当し、そのすべてが順調に重版となっていますが、本作りで心がけていることを教えてください。
田畑 読みたい本より「買いたくなる本」を作ろうと思っています。立ち読みなどで軽く読んで理解できるシンプルな本は「読みたい本」、物事の本質に触れていて奥行きがある本は「買いたくなる本」です。
駆け出しの頃、尊敬する小説家から「人は分かりやすそうでよく分からないものに惹かれる」と教えていただき、心を打たれました。村上春樹さんはその典型で、文章は読みやすいけど、書かれていることに奥深さがあり、その読書体験を一言では言い表せません。でも、この「分かりそうで分からない」ことが魅力であり、それを作るために、7~8割は徹底的に分かりやすく親切に作りながら、2~3割はやや難しい内容を入れるようにしています。
──すべてを分かりやすくするのではなく、あえて難しい内容を入れるというのは面白いですね。
田畑 情報の向こう側に、本の「色気」みたいなものがあるんですよね。読み手はそこに奥深さを感じます。教養ジャンルの入門書というと、とにかく分かりやすい本を作ることが正解に思えるかもしれませんが、私はあえて読書の本質的な目的である「われわれは何者なのか」「人間はいかに生きるべきか」といった問いを含めるようにしています。
『若い読者に贈る美しい生物学講義』もこうした意図を反映し、講義形式にして、語りかける読者を明確にすることで、著者の人生観も表しています。そのほうが本に深みが生まれますし、それが私自身にとっての「買いたい本」でもあります。
──その本質的な問いを本に入れ込むには、著者にどういう投げかけをするといいんでしょう?
田畑 著者が本気で書いた部分はあえて削らないことですね。学者や研究者が書きたいことと一般読者が知りたいことにはギャップがありますが、そのギャップを平らにせず残しておけば、本の「色気」が生まれると思います。
──なるほど。企画の立て方のコツはありますか?
田畑 シンプルに自分が買いたくなる本を企画しています。生物学に関心を持てば生物学の本を企画しますし、数学に惹かれれば数学の本を企画します。そこは自分発信ですね。そのうえで自作のマンダラチャートで分析しています。9マス(3マス×3マス)のチャートの真ん中にテーマをおいて、周囲の8マスの空白に、過去にそのテーマではどのような切り口の本があったか、その切り口はどれくらいの部数規模があるのかを書き込んでいきます。
そのうえで、いまの市場や著者の長所を大切にしながら、今回はこの切り口で企画しようと決めています。ここをしっかりと考えないと2万人の読者にしっかりと届けるべきテーマなのに、10万部を目指しているようなタイトルの付け方や中身の作り方をしてしまうなど、テーマと本作りの不一致が生まれるからです。そうすると、読者にも著者にも申し訳ない本ができてしまう。
──読者層を明確にしてから企画を作っていくんですね。
田畑 教養ジャンルは読者が決して多くないので、読者のニーズがあるテーマは何かをしっかり分析してから企画を作っています。たとえば『世界史は化学でできている』は、シンプルに化学の入門書という切り口にすると読者が相当限られてしまうので、多くの読者が見込める歴史と組み合わせて企画にしました。「化学の本をもっと多くの読者に届けたい。どんな企画だったら一定数の読者を見込めるか?」を考えて作った本です。
──その甲斐あって『世界史は化学でできている』はヒットしましたね。他にも重版率の高さを支えたことはありますか?
田畑 書籍オンラインの活用で、受け身のPRから攻めのPRに転換できました。これまでも献本したり新聞広告を出したりしていましたが、どのメディアがどう取り上げるかまではコントロールできません。書籍オンラインは自分で自由に情報発信できるので、原稿を抜粋するだけでなく、漫画にしてみたり対談にしてみたりと様々な切り口で記事化してアプローチできるんですね。
ライトな層に向けて漫画の記事を出したり、知的関心の高い層に向けて専門家による書評記事を出したりして、何が読者に刺さるのか、手を変え品を変え試しています。毎週日曜日に更新していた『若い読者に贈る美しい生物学講義』の漫画の連載はかなり効果が出ました。予算含めて編集者が裁量を持てるのもありがたいですね。
──自身初の翻訳書『WHAT IS LIFE? 生命とは何か』では、発売1週間で累計5万部を突破しましたね。翻訳書に挑戦した理由について教えてください。
田畑 翻訳書は教養ジャンルにおいて大きな鉱脈なので昔からやりたかったのですが、きっかけがなく……新しい試みを応援してくれるダイヤモンド社に入り、ようやくチャンスに恵まれました。「初の翻訳書で、ノーベル賞受賞者の著者に相応のアドバンスを支払えるのか」と不安もありましたが、編集長たちに背中を押されて挑戦できました。
──初めての翻訳書で初版3万2000部の重圧は大きかったのでは?
田畑 初版は1万部くらいだろうな……と思っていたのですが、部数を決定する段階で3万2000部になり、かなりプレッシャーでした(笑)。でも初版から大々的に盛り上げられるのはありがたいことなので、事前に宣伝プロモーション部と書店やWebでの展開を相談し、やれることはすべてやり切ってから発売を迎えました。
1週間で5万部を達成できたのはそのおかげだと思います。あと営業部が書店さんに働きかけてくれて、私が担当したサイエンス本のフェアを行ってくれたのもうれしかったですね。16万部のベストセラーになっている『すばらしい人体』なども含めて、転職後の担当本のうち4冊が5万部を超えているのは、本単体の力だけではなく、書店営業部・宣伝プロモーション部が丁寧に積み重ねてくれたこれまでの下地があったからこそだと感謝しています。
十人十色のプレイスタイルで
挑戦できるオープンな環境
──ダイヤモンド社はコロナ禍ながら売上が好調です。これからさらに成長するために、どんな人が必要だと思いますか?
田畑 個人的には、教養書を一緒に開拓できる仲間が増えるとうれしいです。だから私のようなビジネス書以外の編集者にもぜひ来てほしいですね。私が転職する時「ダイヤモンド社は売れる本を作る編集者がしのぎを削るメジャーリーグだから、入ったら大変だよ」と心配してくれる人がいたんですが、売り上げを競って著者や企画を取り合うようなピリピリした集団ではなく、親切で穏やかな大人の集団です(笑)。
──確かにダイヤモンド社を怖がる人もいますね(笑)。
田畑 外から見ていると「常に10万部出さなければいけない会社」と思うかもしれませんが、そんなことはないです。誰もが売れる本を目指していますが、長い期間で着実に売れる本を積み重ねていき、それぞれのジャンルで活躍している編集者も多いですから。ビジネス書に精通していない編集者でもプレッシャーを感じずに挑戦できる職場だと思います。
──他にも入社前後でギャップを感じたことはありますか?
田畑 ロングセラーが多いことに驚きました。入社前はベストセラーが多い派手な出版社というイメージで、発売直後にものすごく売れて終わり……というパターンが大半かと思っていたのですが、長期的に売り延ばして5~10年単位で増刷を重ねるロングセラーもたくさんあって。爆発型とロングセラー型の両方が得意なのはダイヤモンド社の大きな強みだと実感しました。意外と中に入ってみないと分からないものですね。
──最後に、ダイヤモンド社に興味があるけど一歩踏み出せない人に向けて、背中を押す一言をお願いします。
田畑 ダイヤモンド社は編集者の個性に合わせた本作り、本の売り方を許容する多様性があります。個々人のやり方を応援してくれる懐の深い会社です。「何万部を狙う」といった売り上げの数値だけが絶対視されるわけではなく、いろいろなやり方で活躍できます。思い切って挑戦できる環境がありますから、新しいジャンルを切り開く仲間をお待ちしています!
(終わり)
※具体的な募集要項はダイヤモンド社の採用情報ページをご覧ください。また「マイナビ転職」にも詳しい情報が掲載されています。
※本記事以外にも、書籍編集部メンバーのインタビュー記事や座談会記事がお読みいただけます(記事一覧はこちら)。いずれも、職場の雰囲気や仕事内容をホンネ炸裂で語っています。