真茅久則・富士フイルムビジネスイノベーション社長Photo by Kazutoshi Sumitomo

富士フイルムホールディングスが米ゼロックスとの統合交渉で決裂してから1年半。「富士ゼロックス」は60年弱の歴史に幕を閉じた。新たな事務機子会社として発足した「富士フイルムビジネスイノベーション(BI)」は、強力なゼロックスブランドを失った中で、今後どのように事業を拡大するのか。4月1日付で富士フイルムBIの社長兼CEOに就いた真茅久則氏に戦略を聞いた。(ダイヤモンド編集部 濵口翔太郎)

欧米進出と引き換えに
失った「ゼロックス」の看板

――かつてコピーすることを「ゼロックスする」と表現した時代があったくらいです。ブランド力のある看板を失ったことをどう捉えていますか。

 社名の観点では全く心配していません。富士フイルムホールディングス(HD)は、祖業の銀塩フィルム事業からヘルスケア事業へと中核事業をシフトすることに成功した企業であり、イノベーティブなブランドとして浸透しつつあります。経営学の研究対象にもなり、多くの書籍で取り上げられるほどです。社名変更によって、かえって「変革した会社」というブランドイメージが得られたと前向きに捉えています。

 ただし、「Apeos(アぺオス)」など富士フイルムブランドの複合機は認知度が高いとは言い切れません。その課題を解消するための施策をこれから進めます。

――認知度を高めるに当たって、新体制ではどんなブランディングを行いますか。

 国内では既にテレビCMや新聞広告を打っています。IT部門や総務部門をターゲットにした専門誌やネットメディアにも広告を出し、複合機の導入権限を持つ層に自社ブランドを訴求しています。グローバル展開に向け、今後はこれらの広告施策を欧米でも行います。

――米ゼロックスとの商品供給契約は2024年まで残りますが、合弁解消に伴って販売地域の制約がなくなり、今後は欧米でも複合機を自由に販売できます。ゼロックスブランドを失った中で、新体制では欧米市場をどう攻めますか。

 最初の段階では他社へのOEM(相手先ブランドによる生産)に力を入れます。数社から「ぜひ供給してほしい」と依頼があり、既にいくつかの企業に製品を提供しています。自社ブランドの複合機を売るのはその先で、現在は販売代理店の開拓を進めている段階です。

――富士フイルムHDとの統合交渉が破談に終わった後、ゼロックスは間髪を入れず19年に米ヒューレット・パッカード(HP)に敵対的買収を持ち掛けました。それも結局はご破算になりましたが、因縁のある米HPからOEMの話はありましたか。