バイデン政権はトランプ前政権の対中抑止戦略であるインド太平洋戦略をおおむね引き継いだが、いくつか違っている点がある。
一点目は、日本など同盟国やパートナーとの連携を重視し、QUAD(日・米・豪・印)やASEAN(東南アジア諸国連合)との一体性を強調している点だ。
特に、インドとの連携を重視してQUADの枠組みを推進していこうとする強い意欲が見られることは注目すべきだ。
二点目は、人権や気候変動、さらには競争力やイノベーション、デジタル経済、5Gなどの先端技術のような非伝統的な安全保障問題を重視した外交安全保障を進めて、対中抑止態勢を強化しようとする姿勢が目立つことだ。
こうした政策の背後に、中国がインド・太平洋地域での法秩序と安定を強力な軍事力や技術力で変えようとしている問題や、香港、新疆ウイグル自治区での人権抑圧、さらには不法な海洋権益を求めて活動を進め、台湾に圧力をかけていることに対して、米国だけでは中国を抑止できなくなっているという現実的認識がある。
冷戦が終わって15年ほどは、「米国一強」だったが、中国とロシアが力を徐々に付け、今の世界は米中露の戦略的競争関係の状態だ。
中国が南シナ海の人工島に軍事建設を本格化させ、ロシアがクリミア半島を占領してウクライナ東部に軍事介入した2014年が分水嶺の年だった。
以来、欧州地域では最大脅威は再びロシアになり、インド・太平洋地域では中国が最大競争国になった。
米国は、このため、欧州では欧州抑止イニシアチブ(EDI)、インド太平洋では、太平洋抑止イニシアチブ(PDI)と呼ばれる安保外交戦略でロシア、中国に対応する抑止体制の強化を図っている。
これを進めるうえで米国の大きな関心事が、日本をはじめとする同盟国やパートナー国が台湾の防衛を重視する米国の戦略にどのように支援・協力するのか、ということだ。
今回の日米首脳会談の米国側の最大の狙いもこの点にあった。会談後の会見でバイデン大統領は、「日米同盟の鉄壁の支持を確認した」、「中国の挑戦を受けて立つために共に取り組むことを約束した」と会談の成果を語ったが、共同声明でも日米の連携が踏み込んだ形で示された。
「日米両国は困難を増す安全保障環境に即して抑止力および対処力を強化すること、サイバー・宇宙を含む全ての領域を横断する防衛協力を深化させる」ことを強調している。これは従来の米国の足らないところを日本が補うというのではなく、全面的な同盟協力を迫ってきた感じだ。
今までになかったことであり、日米同盟は新たな局面に入ったと思わざるを得ない。