なぜあの人のジョークは面白いのか?『なぜあの人のジョークは面白いのか? -進化論で読み解くユーモアの科学』 ジョナサン・シルバータウン 著 水谷 淳 訳 東洋経済新報社 1760円(税込)

 こうしたおかしさを意図的に起こさせるのが「ジョーク」である。意図的なジョークであれ、意図的ではないイグノーベル賞受賞研究であれ、それによって引き起こされる「笑い」のメカニズムはおそらく変わらないのだろう。どうして「笑える」のか。それを明らかにするのが、本書『なぜあの人のジョークは面白いのか?』である。

 著者のジョナサン・シルバータウン氏は、英国のエディンバラ大学生物科学部教授で、植物の集団生物学を専門としている。著書に『美味しい進化』『なぜ老いるのか、なぜ死ぬのか、進化論でわかる』(ともにインターシフト)などがある。

 進化生物学者が説き明かす「面白さ」のメカニズムとは、どのようなものなのだろうか。

面白いジョークは
「不調和」がポイント

 本書では、文章のところどころにジョークが引用されている。その中で、私が特に面白いと思ったものを紹介しよう。

“紳士がケーキ屋に入ってケーキを注文したが、すぐにそれを返して、代わりにリキュールをくれと言った。そしてそれを飲み干して、お代を払わずに出ていこうとした。店主は紳士を引き留めた。

「何ですか?」と紳士が聞いた。
「リキュールのお代を頂いていませんよ」
「でも代わりにケーキを渡したじゃないですか」
「そのお代も払っていませんよ」
「でも食べませんでしたが」”

 なぜ人は面白いと感じるのか、という疑問に対し、これまで多くの研究がなされてきた。その中でも有力なのが「不調和仮説」と呼ばれるものだ。何らしかの「不調和」が発生し、それが解消されたときに笑いが発生する、という仮説である。

「不調和」は、ギャップや違和感と言い換えてもいいだろう。先のジョークで言えば、「店で飲食をすればその代金を払う」という一般常識と、「紳士がお金を払わずに店を出ていこうとした」という事実の間に、「不調和(ギャップ、違和感)」がある。

 そしてその不調和は、その後の紳士の主張により、一応、解消される。紳士が「破綻したロジックで代金を支払わずに済まそうとする」というのが「不調和の解消」であり、その論理のめちゃくちゃさが笑いを誘う。