日本のワクチン接種率は
先進国の中でずば抜けて低い

 そもそもこうした意見が急激に増え、政府が緊急事態宣言を延長せざるを得なかった決定的な要因は、日本が国際的なワクチン獲得戦争に敗北したことだ。これは菅首相も認めている。

――国内のワクチンの接種は医療従事者や高齢者から順次、行われていますが、いまだ1回目のワクチン接種を受けた人は全体のわずか3%以下です。

 政府が米ファイザー社からワクチンの購入を決める際、安全性を確認するために厚生労働省が同社から数百人分のワクチンを調達した。そこで副作用の有無を検証するのに1~2カ月を費やしてしまった。数百人分、誰がどのように接種するか、ファイザーからの購入をどうするか、そのようなことを決めあぐねているうちに、国際的なワクチン獲得戦争に乗り遅れてしまったのだ。

 現時点(5月14日時点)で日本のワクチン接種率は、経済協力開発機構(OECD)加盟37カ国の中で最下位。先進国の中でずば抜けて低い。日本は何事もとにかく慎重。このような国はほかにない。

 去年6月に、自民党の武見敬三参院議員や塩崎恭久衆院議員が僕のところに来て、「今の日本の感染症法(1997年制定)は、100年以上前に制定された伝染病予防法(1897年制定)を土台にしたもので、内容が極めてあいまい。抜本的に改革しなくてはならない。田原さんからも安倍首相にそのように伝えて説得してほしい」と言った。

 感染症法の改正は、厚生労働省が大反対していた。僕は「よし、わかった」と、8月3日に首相へ電話したところ、内閣総理大臣補佐官(当時)の今井尚哉さんが出て、「田原さん、実は今、安倍首相の体調が悪いんです」と。そして8月28日に辞任を表明し、結局、安倍元首相の任期中には抜本的な改革はできずに終わった。

 日本国憲法は施行から74年を迎えたが、今の日本国憲法では、全体のために個人の権利を抑制するということができず、行政が強制力をもって「有事」に対応することができない。欧米のような都市封鎖(ロックダウン)を行うこともできない。

 かつての軍国主義やハンセン病患者の強制隔離などの反省があり、日本は個人の権利の制約に関しては極めて慎重だ。しかし新型コロナウイルスの感染拡大や周辺国の緊張の高まりを受けて、日本国憲法の改憲論が強まってきている。