デジタル化が進むほど
人は「手触り感」を求める

<br />鎌田由美子著『「よそもの」が日本を変える』(日経BP)

 テレワーク、オンライン教育、オンライン診療、ハンコのデジタル化など、コロナ禍をきっかけに日常生活のデジタル化が一気に進みました。

 一方、デジタル化が進めば進むほど、実体のあるタンジブルなもの、「手触り感」のある体験や商品がより価値を持つようになります。八百屋や肉屋、魚屋、豆腐店、花屋といった昔ながらの店舗に新鮮さを感じる若い世代が増えているのはそのためでしょう。

 若い店主がこれまで見たことのない野菜や総菜の詳しい説明をしていたり、デリバリーやネット注文体制が整っていたりと従来の店舗スタイルそのままではないにしろ、対面販売や手書きPOP、店頭に山積みされた陳列、顧客と会話をしながらの量り売りやカット販売といったスタイルは今こそむしろ新鮮です。効率化したい部分とほっこりしたい部分、時間をかけたい部分とかけたくない部分を明確に使い分ける人たちが増えていくように感じています。

 農業もまた自然に囲まれた中での仕事であり、農作物が日々成長するという「手触り感」があり、ほぼすべてが“見える化”されています。そしてその奥に文化や歴史といった琴線に触れる存在があります。忙しい高感度な人たちが農業に魅力を感じる理由の1つかもしれません。

長寿番組「ザ!鉄腕!DASH!!」が
投げかけるメッセージ

 私が好きなテレビ番組に「ザ!鉄腕!DASH!!」があります。1995年にスタートし、東日本大震災など世の中の変化も取り入れるなど、楽しみながらも学ぶことが多い番組です。ご覧になっている方も多いと思いますが、DASH村では稲作や野菜作りだけでなく、家畜の役割など、昔の農村で当たり前だったサステナブルな生活が展開され、そこに新鮮さを感じる若い世代と懐かしく感じる60代以上の世代が共存しているのです。

 09年からスタートしたDASH海岸では、コンクリートと工場に囲まれ、ごみとヘドロに汚染された一帯に干潟をつくることからスタートしています。身近な生物がよみがえってくる姿から、環境問題が遠い課題ではなく、自分の身の回りでもできることがたくさんあるというメッセージが込められているように感じます。

 経済学者ケイト・ラワース氏は著書『ドーナツ経済学が世界を救う』の中で、古い経済理論から始めるのではなく、人類の長期的な目標から始め、その目標を実現できる経済思考を模索し、ドーナツ型の経済フレームにたどり着きます。

 そのドーナツは社会的な境界線と地球環境的な境界線の2つからなり、「社会」と「環境」という人類全体の幸福を支える条件をシンプルにビジュアル化しています。そして、経済は成長し続けるのではないから、設計による環境再生的経済に向き合うべきだと提唱しています。

 世界の経済構造となると壮大なことのように思えます。しかし、まず自分自身が口にするものを、「環境に負荷をかけない農業」から消費することは、決して不可能ではありません。この視点からも、農業に心を引かれる層が広がってきていることは、自然な流れと言えるでしょう。