「女人禁制という四字熟語は中世末期から近世初期に現れます。中世に『血盆経』という経典が女性の穢れを強調したことの影響が大きく、女人結界も同様です。1872年に明治政府が女人結界の解禁を指令しています。神仏と関わる場では多くの禁忌があり、その一つの女性への禁忌であったと言えます」(鈴木氏・以下同)

 鈴木氏は最近のマスコミが女性差別を強調するために「女人禁制」という言葉を乱用することにも危機感を持っている。

「女人禁制は近世以降や最近になって設定されたことも多いです。日本酒の女人禁制も長い伝統ではありませんし、歴史的背景や個々の状況を考慮せずに、全てを近代の言説で説明することはできません」

 女人禁制の理由の多くは、神仏への祈願にあたって清浄性を守り禁忌の遵守が求められたことによる。禁忌を犯すと神仏の怒りを買ったり、天変地異が起こると信じられる時代が長く続いたためだ。

 酒の醸造でも酒蔵に神を祀っていたので、女性の月経の血を「けがれ」としたことが理由だ。しかし、これも文献上で確認できるのは江戸時代中期頃まで。さらに古い時代には女性が酒造りに携わっていたと推定されており、「杜氏」という名称も、年配の女性を尊敬して呼ぶ「刀自(とじ)」という言葉からきたものとされている。

「『女人禁制』の伝統の説明は困難です。元々、言い伝え、聞き伝えされてきたものが、近代になって『伝統』という概念になったからです。伝統とは何かを説明するのは容易ではありません。日本酒の業界では禁忌が見直されて女性が参入する道が開かれていったのでしょう」

 現在は日本酒の「富久長」の杜氏である今田さん以外にも、「御前酒」の辻麻衣子さん、「るみ子の酒」の森喜るみ子さんなど、多くの女性杜氏が活躍をしている。

土俵の女人禁制は
作られた伝統

 女性解禁が進む日本酒業界とは対照的に、今も女人禁制を続けているのが相撲界だ。「土俵に女性は上げない」という不文律を知っている人は多いだろう。

 2018年、大相撲舞鶴巡業中に土俵上であいさつに立った舞鶴市長が倒れるアクシデントが発生し、救護のため女性看護師が土俵に上がった。ところがその最中、主催する相撲協会側が「土俵から下りてください」とアナウンスしたことが報じられ、大きな非難を浴びることになった。

 日本大相撲協会の八角理事長は「理事長談話」として相撲協会側が女人禁制を守る理由を公表している。それによれば「土俵に女性を上げないのは『女性が不浄だから』ではなく、土俵は力士が勝負をする神聖な場所だから」と説明。また「相撲はもともと神事を起源としている故に伝統文化を守りたい」とも言及している。

 しかし鈴木氏は、大相撲協会側の主張には多くの疑問視すべき点があると指摘する。