即成院は御寺泉涌寺の塔頭寺院。京都市東山区にたたずんでいます即成院は御寺泉涌寺の塔頭寺院。京都市東山区にたたずんでいます

 内陣に安置されている阿弥陀如来と二十五菩薩の半分は、平安時代の開創当初から一切修復を加えていない姿を保っています。仏様の体の中にはありがたいお経や胎内仏などを入れるのが一般的ですが、即成院の仏様の体の中は空洞なのだそうです。「仏様の中を空洞にすることによって、仏様が極楽から来られるときに奏でる妙なる調べが一層響くように。あるいは、お経を唱えるとそれが仏様の体で反響するように考えられています」と住職。「祈願主が希望するのは最良の気の流れを仏様にいただくこと。おなかの中に何もないことをよく『腹に何も抱えていない清らかな状態』といいますが、その清らかな空間を作るために、場所によっては皮ほどの厚さしかないほど彫り込まれているんです。その状態で1000年保っているのはすごいことなんですよ。技術でカバーしているんです」

参詣者は国内のみならず世界から。
ドキドキの初体験も

菩薩のお面をかぶった取材班。仏様と菩薩様の前で記念撮影菩薩のお面をかぶった取材班。仏様と菩薩様の前で記念撮影

 即成院を創建したのは橘俊綱公とされています。父親は藤原氏の全盛期を築いた藤原頼通公、祖父は「この世をば わが世とぞ思ふ」と詠んだあの藤原道長公。つまり、超一級の血筋をもつ平安貴族であり、平安時代最高の風流人とも称される御仁です。俊綱公は父親が建てた宇治の平等院を超える極楽の世界をこの世に残したいとの考えから、「現世でも極楽、来世でも極楽」をかなえる即成院を建てました。阿弥陀如来と二十五菩薩の姿は、極楽浄土を立体的に表現したもの。この世で唯一極楽を感じられるお寺ということで「現世極楽浄土」と呼ばれるようになったのです。

 菩薩様は極楽浄土に人々を導く際に音楽を奏でるとされることから、二十五菩薩の半数は楽器を持っています。そのことから「仏様のオーケストラ」の異名がつきました。平安時代から仏様の前で歌会をして最高の歌を献じたり、舞を踊って奉納したり、ということがあったようですが、今でも演奏家が音楽を奏でたり、ワンフレーズを歌ったり、ときには歌舞伎役者が一場面を演じたりするなど、各分野の方が最高の技術・時間をお供えしています。住職からは「アカデミー賞を取った方や世界的に有名な舞台俳優の方が来ることもありますし、最近でしたら○○○(人気アイドルグループ)の方とか来ましたね」と驚きの話もうかがいました。

 グローバルな話を聞いた後で案内していただいたのは、金色のお面がずらりと並ぶ部屋。即成院では毎年10月第3日曜に菩薩の面と装束を身につけて境内を練り歩く「二十五菩薩お練り法要」()を行っています。展示されているお面はその法要で使われるもの。そして、今回は菩薩様のお面をつける「菩薩体験」に挑戦させていただきました。少しずつ表情の違うお面のなかから心に響いた1枚を選び、そっと顔につけてみます。ほのかに感じる温かさがじんわり全身に染み渡るようです。菩薩様を拝むことはあっても、菩薩様の気持ちになるのは初体験! 得難い貴重な体験をさせていただきました。

※新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から2020年の法要は中止となりました。2021年の実施については寺院の公式ウェブサイトなどを確認してください