世界を動かすtsmc#1Photo:TSMC

台湾TSMCが日本の熊本での工場建設を検討しているという観測が浮上した。だがこの構想が実現する可能性はいまだもって極めて低い。最優先の経営課題として、TSMCはこれから4年に及ぶ、自社の存亡を懸けた半導体戦争に突入しようとしているからだ。特集『世界を動かすTSMC』(全5回)の#1では、半導体産業の最強王者、TSMCが始める壮絶な産業戦争を全解剖する。(台湾「財訊」林宏達、翻訳・再編集/ダイヤモンド編集部副編集長 杉本りうこ)

TSMCの優先課題は
日本工場じゃない

 60兆円。この巨額は台湾の半導体企業、TSMC(台湾積体電路製造)の直近の時価総額である。半導体企業としては韓国サムスン電子、米インテルを上回り業界トップ。そればかりかあらゆる上場企業の中でも、米テスラに続く世界9位につけている。

 なぜTSMCは株式市場でここまで評価されるのか。最大の理由は世界の重要なハイテク企業を軒並み顧客に抱え、多種多様な半導体を巨大工場で製造する、半導体受託製造(ファウンドリー)というビジネスモデルにある。

 世界のハイテク産業にとって、TSMCの半導体製造能力は水や電気に続く「インフラ」のようなもの。この企業を欠いた半導体産業、ハイテク産業はもはや成立しない。だから半導体販売額では上位のインテルやサムスン電子よりも、投資家から高く評価されているわけだ。

 このTSMCを日本政府、特に経済産業省は国内に誘致したくてたまらない。2月にTSMCは日本に最大186億円を投じて半導体材料の研究開発拠点を開設すると発表したが、日本政府はこれに飽き足らず、「半導体の量産工場も」とアピールし続けている。こういった中浮上した「TSMCが熊本工場を検討」の観測に、政府関係者は小躍りしていることだろう。

 だが政府が税負担軽減や補助金などの面で、ウルトラC級の手厚い優遇策を示さない限りは、TSMCは日本での生産を「検討しただけ」で終わるだろう。TSMCははっきり言って、それどころではない。今年から2024年までの足かけ4年に及ぶ「戦争状態」に突入するからだ。その全貌を「財訊」(4月1日号)がリポートしている。次ページからつぶさに見ていこう。