脱炭素の最強カード#8
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日本の半導体部材メーカーを支援する目的で、経済産業省が、世界最大の半導体ファウンドリーである台湾のセミコンダクター・マニュファクチャリング・カンパニー(TSMC)を日本へ誘致している。半導体の大需要国でもない日本に生産拠点を誘致することは難しく、現時点では「後工程の研究開発拠点」を日本に設ける限定的なプロジェクトにとどまっているが、その裏側にはTSMCと経産省の深謀遠慮が隠されている。特集『EV・電池・半導体 脱炭素の最強カード』(全13回)の#8では、経産省が繰り出す「泣きの一手」を読み解く。(ダイヤモンド編集部 新井美江子、山本 輝)

TSMCが日本“進出”でも
国内半導体業界に落胆が広がる理由

「やっぱり製造拠点は無理だったのか。当然と言えば当然ではあるが、それでも経産省はよくやったというべきだろう」

 2月上旬、世界最大の半導体ファウンドリーである台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング・カンパニー(TSMC)が日本に研究開発拠点を設けるというニュースが飛び込むと、半導体業界には静かに落胆が広がった。

 いまや世界の半導体産業を牛耳るTSMC。昨年来、日本の産業空洞化に危機感を覚えた経済産業省が、水面下で国内誘致を進めてきた。TSMCに最先端の製造拠点を構えてもらうことで、そこに部材・製造装置を納入する国内メーカーの基盤を日本にとどめようと画策していたわけだ。

 今回のTSMCの日本進出は、その必死の努力の「成果」と言えなくもない。

 ただし実のところ、TSMCが日本に設けるのは、経産省が当初目論んでいた製造拠点ではない。あくまでも研究開発拠点である。

 しかも、研究開発の対象は「後工程」とされており、半導体製造の中核技術を抱える「前工程」ですらない。投資額はわずか200億円程度。2020年に約2兆円の純利益をたたき出したTSMCにしてみれば、“はした金”といっていい。

 半導体関係者の間からは早くも、「今回の研究開発拠点は経産省の熱意にTSMCが根負けし、“お付き合い”で決めたものにすぎないのではないか」と、やゆする声が聞こえてくる。

 それでも、事はそう単純ではなさそうだ。TSMCが日本の経産省に気を使わねばならぬ特段の理由はないし、意味のない決断を下すはずはない。TSMCの日本進出を巡っては、水面下で経産省が何とか成果を得ようと、ギリギリの神経戦を繰り広げていたとみられる。

 実は今、半導体業界では技術の「ゲームチェンジ」が起きつつある。そして、その主戦場は後工程にこそある。経産省はTSMCに半導体の材料や製造装置という日本の切り札をちらつかせることで、半導体産業におけるチョークポイントを何とか日本に築こうとしているようだ。

 具体的には、どのような“エサ”をちらつかせたのだろうか。