この事件の詳細は分からないが、性犯罪は衝動的・短絡的に行われるケースばかりではなく、計画的に相手を陥れる場合もある。常習者ほど手慣れていて、言葉巧みに被害者を誘導し、被害者の「まさかそんなことをされるはずがない」「疑っては申し訳ない」という気持ちを逆手にとって行われることもある。困っているフリをして、善意から手助けをしようとした人や子どもを狙ったケースもある。

 また、ショッキングな体験をしたときに体が動かなくなる現象は「Tonic immobility(擬死反応/強直性不動状態)」や「フリーズ」と呼ばれる。性暴力被害に遭ったときに逃げられず、抵抗できない状態に陥るのは、専門家の間ではむしろ「普通」のことだ。

*関連記事:被害者に「なぜ逃げなかったのか」と聞いてはいけない理由(Yahooニュース個人/2019年6月3日)

男性の性被害
国の大規模調査が始まったのは、つい最近

 筆者は、今回のように男性が被害者となった性犯罪事件の報道は今後増えるだろうと予想している。男性も被害に遭う実態が知られ始めたことにより、被害者が被害申告しやすい状況が、ほんの少しずつではあるが進み始めていると思うからだ。

 内閣府の「男女間における暴力に関する調査」(令和2年度調査)では、「無理やりに性交等をされた被害経験」について、男性(調査対象1635人)の1%が「ある」と答えている。


「男女間における暴力に関する調査」は3年に一度のペースで行われているが、「無理やりに性交等をされた被害経験」の質問が男性にも行われるようになったのは前回の平成29年度調査からだ。

 これは2017(平成29)年に性犯罪に関する刑法が改正され、口腔や肛門への性器挿入の強要も膣性交の強要と同等に裁かれるようになり、それまでの「強姦罪」が「強制性交等罪」に変更されたことに伴う。それまで調査は女性を対象に「無理やり性交を」された経験を聞くものだったが、これ以降は男女を対象に「無理やり性交等(膣性交・口腔性交・肛門性交のいずれか)を」された経験を聞く質問に変わった。