【東大教授が教える】「歴史好きな自分」をつくった児童書ベスト4

歴史上の人物の「すごい」功績と「やばい」人間臭さを対比させた『東大教授がおしえる やばい日本史』シリーズが、59万部を超える大ベストセラーとなっている(2021年7月時点)。
新刊『東大教授がおしえる さらに!やばい日本史』は外交がテーマ。中国、アメリカ、ヨーロッパをはじめとした世界と日本の関係の歴史を、「すごくてやばい」人物を軸に振り返った、爆笑必至の内容だ。
「こんなにおもしろい日本史、読んだことがない!」と、小学生から90代まで幅広い層に愛読されている本シリーズには、読んだ人が歴史好きになる工夫も施されている。
そこで、監修者の東京大学史料編纂所教授の本郷和人氏に、子どもが歴史好きになるために親にできること、教育界にできることについて聞いてみた。(取材・構成/樺山美夏、撮影/疋田千里)

受験勉強が「歴史嫌い」を大量生産している

―― 『やばい日本史』『さらに!やばい日本史』をどちらも爆笑しながら読みました。学校の歴史の授業はつまらなかったので、子どもの頃にこんな本を読んでいたらもっと歴史好きになったのに……と思いました。本郷先生は日本史の専門家ですが、学生時代から得意科目だったんですか?

本郷和人先生(以下、本郷) 歴史はそりゃ一番よかったです。理系は壊滅状態だったので、歴史や他の人文系の得意な科目で点数を上げて、みんなの後ろにくっついていった感じでした。

―― 歴史が好きになったのは、学校の授業が楽しかったからですか?

本郷 いえ、僕は小学校のときから歴史が大好きだったんです。だから高校で習う知識ぐらいは、小学生のときすでに獲得していましたね。でも、多くの学生にとって、中学・高校の歴史の授業は楽しい・楽しくない以前に、内容についていくので手一杯なんじゃないかな、と思います。

―― 受験勉強があるから、ということですか?

本郷 そうです。中学高校は、普段の勉強に必ず受験勉強っていうバイアスがかかってくるわけですよ。たとえば高校受験やらなきゃいけない中学生は、高校受験の勉強をしなくちゃいけないし、中高一貫校であっても高校生になると大学受験がありますからね。

 それと関係なく勉強を楽しめるのは、よっぽどの秀才か、何かひとつの科目だけにのめり込んでいる一握りの生徒ですよね。だから、学校の勉強自体がおもしろいという境地には、なかなか達することができないわけです。

―― なるほど。では、本郷先生が歴史好きになったきっかけは?

本郷 4年生になる前の春休みに父親が奮発して、10日間ぐらい京都・奈良の旅行を計画してくれて、家族みんなで行ったんですね。そのときに見た仏教芸術がきれいだな、素晴らしいなと感じまして。まあジジくさい子どもだったんですけど、歴史の魅力にすっかりハマったんです。

 もともと僕は体が弱かったので、小学1年生くらいまでは、1冊目の『やばい日本史』にも登場する野口英世がヒーローだったんですけど。

―― 幼少期に大火傷を負った左手の手術を受けて、医学の素晴らしさを知り、細菌学者になった野口英世ですね。

本郷 そうそう。いまから思うと信じられないけど、僕は正義感の強い子どもだったので、偉人伝を読んで僕も野口英世みたいにお医者さんになろうと思って。世のため人のために、困ってる人を救う仕事がしたかったんです。

 でも、小学校5年生のときにフナの解剖をやったら、その感触がイヤでイヤで。メスを使えばよかったんだけど、はさみでフナのお腹を割いちゃったんですよ。その感覚が気持ち悪過ぎて、母に言ったら、「医者になるんだったら解剖しないと駄目よ」と言われたので、医者はあきらめたんです。それからですね、本格的に歴史が好きになっていったのは。

―― 仏教芸術の魅力は、たとえばどういうところでしょうか。

本郷 仏像の美しさです。阿修羅とか、阿修羅と一緒にいる五部浄とか。五部浄は、胸から上しか残ってないけど、素晴らしく美しい仏像です。これを1200年前、1300年前の人がつくったと知って、びっくりして。人間ってすごいなと思ったんですよ。

 仏像の美しさ、歴史的建造物の美しさに魅せられてから、そこにまつわる歴史的人物にも興味を持ちはじめました。「これを全部ひっくるめると歴史の勉強なのかな?」って気がついたのが、5年生、6年生のとき。そこからは、好きこそ物の上手なれで、歴史に関する本を読みまくりました。