入試から日本史を外せば授業は楽しくなる!
―― もし本郷先生が中学か高校の日本史の先生になって、子どもたちが興味を持つ授業をしてくださいと言われたら、どんな授業をすると思いますか?
本郷 無理ですね。いまの受験に対応しながらおもしろい授業をやろうとしたら、まず時間が足りません。日本史の授業を受けながら机の下で数学をやってる子はいるんです。だけど逆はいない。特に高校生にもなると、数学と日本史の優先順位に差があることが分かってくるでしょ? 数学は考える、日本史は覚える教科だから、考えるほうが偉くて、覚えるほうは偉くないよねってなっちゃう。そうなっちゃったらおもしろい授業を展開するのは難しいですよ。
―― では、授業では無理だとしても、たとえば家庭で、先生のご家庭のように、親にできることはありますか?
本郷 子どもや学生に興味を持たせるためには、2つの方法で無味乾燥な日本史の勉強を変えることが必要です。1つは、すぐに即効性があるものとして、親御さんがお子さんと一緒に歴史について語り合って楽しむこと。大河ドラマを見て感想を言い合ったり、もちろん『やばい日本史』みたいなおもしろい本を一緒に読んだっていい。そこで「自分だったらどうする?」ってお互い考えてみたり。その流れで、「歴史っておもしろいよね」っていう話を普段からしていると、子どもも自然と興味を持つと思います。
中学・高校ぐらいのお子さんになると、『三国志』とか『信長の野望』とか、歴史関係のゲームがいっぱいあるので、そういうものから入ってもいいんですよ。とにかく、授業以外のところで興味を持つことが大事なので、ゲームはそのための材料にピッタリです。
もう1つの方法は、入試から日本史を外すことですね。これが一番の問題解決になるだろうと思っているので、僕の今後の課題でもあります。要するに、受験から外して、高校の日本史の授業は残す。そうすると何ができるかというと、先生方の腕の見せどころで、日本史を自由に教えられるようになります。入試がなくなったら好きにやればいいんですよ。
たとえば1年間ずっと、織田信長の天下取りの話だけ扱うとか、幕末、明治維新の時代で区切って掘り下げるとか、それを1年間やると歴史っておもしろいなって思う子が出てきます。だから僕は、あと何年生きられるか分からないけれども、子どもが真に学べる日本史教育については、働きかけていきたいと思ってますね。
―― 『やばい日本史』『さらに!やばい日本史』がおもしろいのは、人を軸にしているからだと思います。人間ってすごいことができるけど、バカで間抜けでやばいところも愛すべき魅力だと思える。どの人物も強烈なインパクトがありますよね。
本郷 そうなんです。人間が物語をつくり、歴史をつくるんですよね。歴史が人を惹きつけるのは、自分と同じ人間がそこに生きていたと思えるから。こういうバカな人間もいるんだなとか、こんな偉い人が女性のお尻ばっかり追っかけていたんだなとか、それで国滅ぼしちゃったらダメじゃんとか、そういうのもおもしろいじゃないですか。歴史の出来事の点と点がつながって、線になって面になっていく物語を知ってはじめて興味を持てるのです。
東京大学史料編纂所教授
東京大学・同大学院で石井進氏・五味文彦氏に師事し日本中世史を学ぶ。NHK大河ドラマ『平清盛』など、ドラマ、アニメ、漫画の時代考証にも携わっている。おもな著書に『新・中世王権論』『日本史のツボ』(ともに文藝春秋)、『戦いの日本史』(KADOKAWA)、『戦国武将の明暗』(新潮社)など。