コアバリュー浸透のため、
「青くさく、泥くさく」続ける

 リスクマネジメントの考え方についても、ワールドクラス企業から学ぶことは多い。橋本氏はこう話す。

「事業を行うことは、リスクマネジメントそのもの。どんな企業の経営者であれ、それと意識していないにしても、リスクマネジメントを実行しているはずです。ただ、それが勘と経験に基づいているケースは多いかもしれません。リスクマネジメントを仕組み化しているかどうか、それがポイントだと思います」

「ワールドクラス」を目指す日本企業に求められる変革とは?ボストン コンサルティング グループ
日置圭介パートナー&アソシエイト・ディレクター

税理士事務所勤務から英国留学を経て、PwC、IBM、デロイトでコンサルティングに従事。2020年6月より現職。立教大学大学院ビジネスデザイン研究科兼任講師。一般社団法人日本CFO協会主任研究委員、一般社団法人日本CHRO協会主任研究委員。著書に『ワールドクラスの経営』(共著、ダイヤモンド社)ほか。

 デュポンの幹部はことあるごとに、「プランBは?」「ワーストケースシナリオは?」といった質問を投げ掛けられる。答えを用意していなければ大きな失点だ。幹部は常に、プランBやワーストケースを考えながら事業に向き合っているという。ワーストケースが致命的で会社の存続に影響を与えるものであれば、どれだけプランAが素晴らしいものであっても即ストップがかかるかもしれない。

「『プランBを考える暇があるなら、プランAに注力して成功するまで頑張れ』という企業もあるかもしれません。しかし、会社の経営としてはちょっと違うのではないかと思います」(橋本氏)

 リスクマネジメントはもちろん、デュポンの全ての企業活動を基盤として支えているのがコアバリューである。同社は「安全と健康」「最高の企業倫理」「地球環境の保護」「人の尊重」をコアバリューとして掲げ、それらを社内に浸透させるよう努力を継続している。

「コアバリューの観点で『おかしい』と思ったら、必ず誰かに相談してほしい。マネジメントからはそんなメッセージが常に発信されています。ただ、全組織にコアバリューを浸透させるのは容易ではありません。『青くさく、泥くさく』やり続けるしかない。植物に水をやり続けるのと、同じことです」と橋本氏は言う。

 コアバリューを率先垂範するリーダーの姿勢も重要だ。例えば、経営トップの新年のあいさつ、四半期ごとの決算発表などの場でも、最初に言及されるのはコアバリューだ。日ごろから繰り返し実行しているから、いざというときでも、コアバリューに沿った行動をごく自然に選ぶことができる。

 リスクマネジメントもコアバリューも「日々の行動の延長線上になって初めて定着する」(日置氏)。デュポンの経営には、グローバルマネジメントを実践していくための多くの示唆が含まれている。