「どこで、どう稼ぐか」が、SDGsのもう1つの本質

2021年6月11日に施行されたコーポレートガバナンス・コード改訂版では、サステナビリティ重視の姿勢が見られる。日本企業のこれまでのサステナビリティに関する活動の多くは、きれいな言葉でぼんやりとした目標を掲げた「本業に付加的な」活動にとどまる。そこに欠けているのは「どこで、どう稼ぐか」というストラテジック・インテント(戦略的意図)だ。200年企業デュポンで、事業ポートフォリオやリソース配分の大胆な組み替えにあたった橋本勝則・前副社長に、持続可能な経営について聞く。(マネジメント・コンサルタント 日置圭介)

ポジティブインパクトにフォーカスする

日置圭介  この6月に改定されたコーポレートガバナンス・コード(CGコード)について、前回(第14回)、橋本さんからポイントをご説明いただきましたが、重要な改定としてもう一つ、サステナビリティ重視の姿勢を鮮明に打ち出してきましたね。

橋本勝則 そうですね。ESG(環境、社会、ガバナンス)に関する取り組みと情報開示を質と量の両面から充実させるように求めています。特に、2022年4月に新設されるプライム市場上場企業にはTCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures:気候関連財務情報開示タスクフォース)と同等の開示が要求されている点は留意すべきです。TCFDの特徴は、リスクと機会の両面から気候変動を捉えて、財務に与える影響を評価することです。

*G20からの要請で、各国の金融関連省庁と中央銀行から成るFSB(金融安定理事会)によって設置された、気候変動関連の情報開示や金融機関の対応について検討するタスクフォース。

橋本勝則橋本勝則(はしもと・かつのり)
東芝 取締役、前デュポン 取締役副社長(CFO)。慶應義塾大学商学部卒業、デラウェア大学修士課程修了(MBA)。YKKの英国CFO等を経て、1990年デュポン入社。米国勤務を経て2001年に財務部長、09年より取締役副社長としてダウケミカルとの合併・3社分割、グループのガバナンス等を担当した。東京都立大学大学院経営学研究科特任教授。共著に『ワールドクラスの経営』がある。

日置  これまでは、気候に関するリスクの開示といっても、企業独自の具体性に乏しかったりして、誰に向けて何のために記述しているかがわからないものが多く、投資家をはじめとするステークホルダーにとって、必ずしも有益とはいえない状況でした。

橋本 こうした地球規模の課題は、自分たちの事業の延長線上にあり、密接に結びついていることを自覚するように要求されているわけです。こうしたマインドセットは、第一に企業戦略と言いたいところですが、リーダーシップや組織の行動原則なくして実現しないので、まさしく企業変革を要求するものです。

日置 国連が2006年にPRI原則を提唱してから15年、それに12年先立つトリプルボトムラインのコンセプトからは30年近く。何事も本格化するまでには時間を要しますが、日本企業も、ようやく本気の取り組みを模索し始めた段階でしよう。これを産業界全体に浸透させるためには、どういう課題がありますか。