一見矛盾する二項対立を
いかに両立させるか

「ワールドクラス」を目指す日本企業に求められる変革とは?ホシザキ
栗本克裕取締役 常務執行役員

立命館大学経営学部卒業後、1988年松下電工(現パナソニック)入社。94年台湾販売会社を皮切りに計17年にわたり、海外法人に出向。アラブ首長国連邦、米国、香港にて海外法人経営責任者を歴任。本社勤務時には経営企画、事業企画、新規事業に従事。2017年にホシザキ入社後は、海外事業部 部長、GRAM COMMERCIAL A/S Chairmanを歴任し、19年3月に取締役(現任)就任、4月HOSHIZAKI U.S.A. Holdings, INC. President(現任)、星崎(中国)投資有限公司 董事長などに就任(いずれも現任)。20年3月同社取締役常務執行役員に就任(現職)。

 橋本氏と日置氏の対談を受けて、両氏に3人を加えたパネルディスカッションが行われた。NECのグローバルファイナンス本部長である青山朝子氏、ホシザキ取締役常務執行役員の栗本克裕氏、IHI執行役員経営企画部長の瀬尾明洋氏である。

 まず、日置氏が問題意識を披歴した。

「『ローカルとグローバル』『短期と長期』『既存と新規』『自立と他力』『経済価値と社会価値』といった二項対立を、いかに高い次元で両立あるいはバランスさせるか。それが、マネジメントの課題の根幹にあるように思います。特に、日本ではこれから人口減少が本格化し、日本企業にとってのホームグラウンドが縮小する可能性が高い。危機感を持って変革に取り組む必要があるでしょう」

 フードサービス機器メーカーのホシザキは、長期視点での事業ポートフォリオの最適化を意識しているという。

「価値を見極め、長期志向で事業の新陳代謝を意図的に進める必要があると考えています。これにはコーポレートが果たす役割が重要です。当社は海外M&Aによる成長を目指していますが、過去に買収した子会社をアップグレードさせるための統合や、稼ぐ力があるうちに事業を分離する『ハッピーセパレーション』も実践しています」と栗本氏は説明する。例えば、成長市場である中国で2015年に買収した一部事業は、市場環境の変化を見通した上で、コーポレートの判断で切り離したという。

「ワールドクラス」を目指す日本企業に求められる変革とは?NEC
青山朝子グローバルファイナンス本部長

NECのグローバルBUのCFOとして、グローバル部門と海外拠点・子会社のCFOを統括している。NECに入社する前は、公認会計士として監査法人トーマツ勤務後、米国でMBA取得。外資系証券会社投資銀行部門を経て、2004年日本コカ・コーラ入社。11年東京コカ・コーラボトリング取締役兼CFO。日本のコカ・コーラビジネスで日本人女性初の取締役として活躍。ボトラー4社統合後、コカ・コーライーストジャパン、コカ・コーラボトラーズジャパンにて、財務、戦略の要職を担った。太陽ホールディングス社外取締役。企業会計審議会臨時委員。

 グローバルとローカルという観点で、興味深いのがNECの組織変革である。同社は18年にグローバルビジネスユニットを設立、それまで各ビジネスユニットに分散していた海外事業を集約し、この組織のヘッドとしてGEジャパン元社長の熊谷昭彦氏を招聘した。

「18年に海外事業をグローバルビジネスユニットに集約した際には赤字でした。それが20年度に黒字転換し、さらなる成長を目指しています。私がNECに参加したのは20年1月。現在は同じく外部から採用したHR担当を含め、熊谷と私との三位一体で改革に取り組んでいます。グローバルユニットのCFOとして海外子会社のファイナンスを統括していますが、最初にやったのはアセスメントです。課題を洗い出した上で、プライオリティーを特定し、ファイナンスとしての改革戦略を立てました。また、それまでは一方通行の指示や報告になっていた各ローカルのCFOたちとのコミュニケーションについても、月次の1on1をスタートし強化を図りました。でもそれだけでは足りないので、進むべき方向について海外メンバーと一緒にグローバルのファイナンスビジョンも作りました。ワンチームをつくり上げたいですね」(青山氏)

 NECの取り組みには、本社の要職に外部から人材を招き、カタリスト(触媒)として変革を主導する、それに先立ち、CxOレベルの役割を組み替え、変革への大きな方向感を示すなど、日本企業にとってヒントが多い。

 グローバルとローカルのバランスは、IHIにとっても重要なテーマだ。瀬尾氏は「以前のような製品輸出の時代にもグローバルな考え方はあったと思いますが、今は製品をいかにローカルに適合させるかが重要なポイントです。いかに地域に合わせながら事業を効率よく広げていくか。グローバルな統合とローカルな適応のバランスをどういった形で取っていくかはまさに課題です」と語った。

「80年代後半に、経営学者のクリストファー・バートレットとスマントラ・ゴシャールによって打ち出されたトランスナショナル(統合と適応の両立)モデルが30年たった今、とても重要」(日置氏)。企業の変化対応力が問われている。