日本人のルールや方法が外国人に伝わらない場合
キャリアラダーを昇っていくために必要なのは、良い職場と巡り合い、良い経験を積み、その職場で「良い卒業」をすることだろう。しかし、在留外国人の就労には、「採用のハードル」と「定着のハードル」という二つの高いハードルがあり、外国人の意思だけでは、それを超えられないことも多いようだ。
伊藤 外国籍というだけで採用枠から漏れてしまうとか、日本語があまり出来ないことで採用されない方も多いですね。(日本語を)話せるけれど、読めない、書けないというケースが在留外国人には多く、それが就労のネックになる。製造現場においての離職原因はいろいろありますが、やはり、そうした日本語コミュニケーションの問題が多いです。何かの使用説明書を職場でバサッと渡され、「『やっておいて』とだけ言われました」という話もあります。企業側からすれば、「外国人は休みやすい」「主張が激しすぎる」といった不満もあります。
自らも外国人の部下を持つ伊藤さんは、経営者や工場長のそうした姿勢も理解できると認めつつ、「ある程度は許容し、理解し、どうやってお互いに前に進むか」が肝心と言う。
伊藤 たとえば、9時始業でタイムカードを押す従業員に対し、「朝礼があるので8時50分に集合」――8時50分に出社して、朝礼に参加して、工場長の話を聞きましょう、と。参加の条件やルール(法律)などの説明がなく提示されたら、多くの外国人にしたら、それは「Why?」です。業務としてなら、就業時間とみなす必要がありますし、業務には関係なく従業員の任意参加であれば、朝礼に参加する、しないは個人の自由です。仮に業務に関係なく任意参加の朝礼に対して給料の支払いを求められた場合、雇用側は「法律で決められているから」「日本人にも(その分の給料は)払っていない」として、妥協しません。朝礼に限らず、長年の慣例で行っていることを曖昧にせず、クリアにすべき点はクリアにする姿勢が必要です。
外国人に対して、伊藤さんは、“ルールが生み出すメリット”を必ず教えている。お互いが完璧に理解し合う必要はなく、そもそも異なる価値観を持つのだから理解できないことがあって当然なのだ。
伊藤 私自身も身に覚えがありますけど……日本人相手のマネジメントだと、「これは決まっていることだから」と、説明なしに押しつけてしまうことがありますよね。でも、納得できない外国人もいるでしょう。ルールがおかしいなら変えるべきだし、絶対に守らなければいけないことなら、なぜそれをするのか、それが何をもたらすのかを話すことが大切だと思います。