ガンダム・ジークアクスの舞台裏#5Photo:kyodonews

ガンダムオタクを意味する「ガノタ」の人口は多く、その多くが子ども時代からの長いファン歴を持つ。特集『ガンダム・ジークアクスの舞台裏』(全10回予定)の#5では、そんな一人であるガノタ歴四十数年を誇るライターの追浜β氏が、数も膨大に上る45年間のガンダム作品の歴史とそれにまつわる昭和・平成の社会史、そして現代のビジネスパーソンにも共感できる作品中の見どころを紹介する。まずは1979年公開の1作目「機動戦士ガンダム」とつながる作品群を指す「宇宙世紀」世代について。ガンプラファンが提供してくれた秘蔵の愛機写真満載の年表と共にお届けしよう。(フリーライター 追浜β)

1979~82年:閉塞の時代に現れた
“白い兵器”ガンダム

“白いモビルスーツ”がテレビに登場してから45年余。シリーズ最新作「機動戦士Gundam GQuuuuuuX(ジークアクス)」は、国内のみならず、海外のメディアやファンコミュニティーにも熱狂的に迎えられている。

 1979年から2025年までに登場した主要なシリーズ作品を取り上げつつ、それぞれの時代背景やファンの反応と共に、ガンダムの歩みを振り返ってみたい。

 第2次オイルショック後の停滞感が社会全体にまん延していた79年。「機動戦士ガンダム」(ファーストガンダム)は「リアルな戦争」を描くアニメとして登場した。

 モビルスーツを「兵器」として描き、それを動かすパイロットには人間らしい葛藤と恐怖がある。地球連邦軍の最新モビルスーツ「ガンダム」に搭乗して戦う主人公アムロ・レイも、天才的な能力を持ちながら戦闘で精神は摩耗し、上官とのあつれきに悩む「少年兵」として描かれた。

 そんなアムロの姿は、現代のビジネスシーンでもなじみ深い光景である。新人が突然、重要プロジェクトを任される状況。アムロたちが搭乗する連邦軍の戦艦ホワイトベースを率いるブライト・ノア艦長は、物語冒頭で上司を失い若手管理職として上司不在の綱渡りの日々を送る。

 連邦軍の官僚的な上層部が無茶な判断をするのも興味深い。結局、成果を出すのは現場の裁量で動く小さなチーム。ガンダムが教えてくれるのは「革新は現場から生まれる」という普遍的な組織の真理である。

「機動戦士ガンダム」は放送当初こそ視聴率・玩具販売共に振るわず、打ち切りとなったが、アニメファンの間では高い支持を集めていく。80年の再放送、81年から82年にかけて公開された劇場版3部作(「機動戦士ガンダム」「機動戦士ガンダムII 哀・戦士編」「機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙編」)によって一気に社会現象化した。

 ガンダムのプラモデル(ガンプラ)ブームもこの時期に始まった。80年7月発売の144分の1スケール第1弾は翌年正月ごろに爆発的人気となり、出荷すれば即完売となった。小学生だった筆者も人気モデルの入荷情報を聞けば、自転車で隣町の模型店まで駆け付けたものだ。

 近所のアニメ好きのお兄さんたちは、「ジャブローに散る!」(※1)といった名シーンを再現したジオラマを作り、模型店のショーウインドーに飾られて一目置かれる存在になっていた。一方小学生の筆者は、手に入ったのは「武器セット」だけ。同級生の中には、「おでん屋キット」とガンダムを抱き合わせで買わされるという謎の仕打ちを受けた者も。私たちは、まさに“哀・戦士”だった。

 この時期、ファンコミュニティーも形を成し始める。カルチャー誌「月刊OUT」はアニメ特集を強化し、誌面では「アニパロ(アニメパロディー)」と呼ばれる二次創作が盛んになる。中でも「シャア×ガルマ(シャアガル)」(※2)といったカップリング表現は現在の同人文化につながっていった。といっても、まさか25年にシャア・アズナブルとシャリア・ブルをくっつける「シャア×シャリ」がSNSやpixivで定番のジャンル・ネタになるとは、当時は誰も思っていなかっただろうが……。

 81年2月22日、新宿駅東口を1万5000人以上ともいわれるガンダムファンが埋め尽くした「2・22アニメ新世紀宣言大会」は、劇場版ガンダムのプロモーションとは思えぬ熱狂ぶりを見せた。アニメが大人の趣味として市民権を得ていく転換点でもあり、閉塞した時代に、新たな文化と市場を切り開いたガンダムの存在感が刻まれた瞬間だった。

 本作では、宇宙という新たな環境で進化した人類――「ニュータイプ」という概念も登場した。人間の革新性や共感力にフォーカスしたこのアイデアは、以降のシリーズの思想的な中核となっていく。

昭和・平成の世相が作品に大きく反映され、また当時の文化にも大きく影響を与えたガンダム。校内暴力問題やバブル経済など、作品中には昭和・平成史のさまざまな出来事が投影されている。それだけではなく、ビジネスパーソンにも参考になる組織論やマネジメント論もガンダムには織り込まれているのだ。85年のZガンダム以降についても詳しく見ていこう。