アメリカの天才経営者、イーロン・マスク率いる電気自動車メーカー「テスラ」と、宇宙開発企業「スペースX」は、驚くほどの短期間で、なぜ世界的な大成功を遂げることができたのか。『TECHNOKING イーロン・マスク 奇跡を呼び込む光速経営』の著者であり、経営コンサルタントの竹内一正氏が、イーロン・マスクの成功の秘訣を3回にわたって解き明かしていく。前回に続き、今回はその2回目である。
イーロンの成功を支えるのは
「2つの両極の思考をバランスさせる」才能
テスラの3万5000ドルのEV「モデル3」は販売絶好調で、欧州市場では今年6月にEV部門はもちろん、ミッドサイズでも販売台数1位に輝き、快進撃を見せている。そして、2024年NASAが打ち上げを予定する木星衛星探査機を搭載するロケットには、ライバル企業を抑えて、スペースXの大型ロケット「ファルコン・ヘビー」が選ばれた。
テスラとスペースXという世界有数のハイテク企業を成功に導く底辺には、イーロン・マスクの『両極にある2つの思考をバランスさせ、実行する』という奇妙な才能があった。
イーロン特有のこの奇妙な才能は、「新品」と「中古品」に顕著に表れている。まず、ここから話を進めよう。
イーロンは、閉鎖が決まっていたトヨタとGM(ゼネラル・モーターズ)の合弁の自動車工場NUMMI、つまり「中古の工場」を安く買い取って、自動車の常識を覆すEV「モデルS」の生産工場とした。これがテスラフリーモント工場だ。その際、NUMMIにあった中古品の大型プレス機などもついでに安価で手に入れた。
一方で、組み立てラインへ入れるロボットにはカネをかけて「新品」のドイツ製の最新機械を導入していた。
最新設計を施したスペースXのファルコンロケットの工場は、旅客機を作っていたボーイング社の中古品だった。しかも、ファルコンロケットの発射台の改修に使う部品は、新品を買うのではなく部下に中古品を探させて対応した。
ペイパル株で約190億円を得て大金持ちになっていたイーロンだから、カネには糸目をつけないと思いきや、実際は違っていて、費用を少しでも安くあげる努力を惜しまなかった。
だからといって、すべてをケチって中古品で賄おうとするのでもなかった。
イーロンは、「新品」と「中古品」の2つの思考のバランスをうまく取って、カネの使い方にメリハリをつけていた。ただしこれは、技術を深く理解していないとできない。