半導体不足は徐々に解消へ
中長期的には需要は堅調に増える

 買収の成果は今後の展開とともに注視しなければならない。世界経済の半導体サイクルを念頭に置いて今後の展開を考えると、短期的には、徐々に市況はピークを打ち、需給のひっ迫感はいくぶんか和らぐだろう。DRAMなどのメモリー半導体を中心に価格はバランスし、23年にかけて世界的な半導体不足は徐々に解消に向かう可能性がある。

 他方、一時的な価格の落ち込みがあったとしても、半導体の市況は持ち直し、再び上昇に向かうだろう。なぜなら、中長期的に世界経済全体でIT関連の投資は増加するからだ。特に、自動車やスマホなどの民生分野で最先端のチップへの需要が拡大するだろう。

 スマホの演算能力の向上やバッテリー駆動時間の長期化、自動車の電動化シフトによって、ロジック半導体や、画像処理センサー、マイコン、パワー半導体の需要は増加するはずだ。微細化をはじめ最先端の製造技術を他社に先駆けて実現できる企業のシェアが高まる展開が想定される。

 車載に加えてIoTなどの分野における半導体需要を狙ってM&Aを行うルネサスの積極的な姿勢は、成長には不可欠な要素だ。問題は、買収の意思決定を下すタイミングが適切か否かだ。

 まず、今回の買収は株価が高値で推移する(資本コストが高い)局面で決定された。市況の変化によってルネサスの事業体制が不安定化し、“のれん”の減損リスクが高まる可能性は否定できない。

 また、複数の企業を買収した後の組織統合(ポスト・マージャー・インテグレーション、PMI)をどう進めるかも現時点では不透明だ。そうした懸念を払拭(ふっしょく)するためには、ルネサス経営陣が組織を一つにまとめて従業員の集中力を引き出し、事業運営の効率化と収益力の強化を実現することが求められる。