上場企業に株式の流動性向上など変革を迫る東証の市場再編。実は仕掛ける側の東証自身も、変革を急がねばならない事情がある。再編の先に東証は何を見据えているのか。特集『東証再編 664社に迫る大淘汰』(全25回)の#4で、その全貌を明らかにする。(ダイヤモンド編集部 重石岳史)
投資家にくすぶる市場見直しの“物足りなさ”
それでも東証が再編に踏み切る理由とは?
「これで終わりではないですよね」
今年4月、東京証券取引所の社長に就任した山道裕己は、ある機関投資家にこんな言葉を掛けられた。
機関投資家が山道に問いただしたのは、東証の市場区分見直しについてだ。東証は2022年4月、現在の1部、2部、JASDAQ、マザーズの4市場を廃止し、「プライム」「スタンダード」「グロース」の3市場に再編する。
東証は金融審議会の議論を踏まえ、新たに最上位市場となるプライムについては流通株式時価総額100億円以上、流通株式比率35%以上といった上場維持基準を設定。ところが、この基準に“物足りなさ”を感じる投資家も少なくない。
「上場基準は見る人によって違う。投資家は、例えば35%の流通株式比率では『少ない』と言う。彼らからすれば、株は多く買えた方がいいからだ。一方、上場企業からすれば、基準が突然変わるのはやはり『大変だ』となる」。山道はそう述べる。その言葉から透けて見えるのは、投資する側とされる側という、相反する立場の利害を調整せざるを得ないかじ取りの難しさだ。
さまざまな不満もくすぶる中、そもそも東証はなぜ、このタイミングで再編に踏み切ったのか。そこには東証自身が抱える問題がある。