プライム落ちを回避するには、株式の流動性を高めるのも重要な一手だ。しかし上場企業の中には、オーナー一族に保有株を売ってもらえず、頭を抱えるところも多い。そんな中、横浜銀行は頭取自らオーナーに株式放出を直談判する「スーパートップセールス」まで始めている。特集『東証再編 664社に迫る大淘汰』(全25回)の#15では、神奈川、東京という肥沃な地盤を武器に、東証の市場再編をチャンスとして企業に食い込む横浜銀の動きを追う。(ダイヤモンド編集部 新井美江子)
東証の市場再編で浮上する
オーナー問題の深刻
「流通株式数を増やそうと、オーナー一族に保有株式の一部放出をお願いした。ところが、いろいろな理由を付けて断られてしまった。結局、多額の配当収入を失いたくないのだろう」
来年4月に行われる東京証券取引所の市場再編に向け、最上位のプライム市場への上場基準クリアを目指そうと奔走するあるIT企業の社長は、ほとほと困り果てた顔をして吐き捨てるようにそう言った。
東証の市場再編は、中小企業にとって一大事だ。上場を維持するには、プライム市場なら「流通株式時価総額100億円以上、流通株式比率35%以上」、スタンダード市場なら「流通株式時価総額10億円以上、流通株式比率25%以上」といった具合に、決して簡単ではない基準をクリアしなければならないからだ。
特に、「東証1部上場」の信用力によって商取引や採用活動で絶大な恩恵を受けてきた企業は、プライム上場を諦めるわけにはいかない。そのため、プライム不適合となりそうな企業は目下、基準を達成するべくありとあらゆる手段を検討している。
こうした企業が頭を悩ませていることの一つが、オーナー問題である。
中小の上場企業では、オーナー家が相当数の株を保有していることが多い。プライムなどへの上場残留を目指し、基準をクリアしようと思えば、非流通株式であるオーナー株の放出は一定の効果がある。
しかし、冒頭のように配当収入の減少を嫌がる一族などがおり、その実現は「言うは易く行うは難し」だ。
そんな複雑な事情をはらむ企業の市場再編対策を、頭取まで出動してバックアップするのが、神奈川県と東京都を地盤とする地方銀行の横浜銀行である。